「不寛容に苛まれた世界で燃え上がる怒りに圧倒される圧倒的にリアルなドラマ」レ・ミゼラブル よねさんの映画レビュー(感想・評価)
不寛容に苛まれた世界で燃え上がる怒りに圧倒される圧倒的にリアルなドラマ
2018年W杯優勝に沸くシャンゼリゼから始まる物語。『あゝ無情』の舞台として有名なパリ郊外の街モンフェルメイユ。シェルブールから異動してきた警官ステファンが配属されたのは犯罪防止班BAC。同僚のクリスとグワダとともに街を巡回しているとロマのサーカス団と黒人グループの小競り合いに遭遇する。サーカス団の檻からライオンの子供が黒人の少年に盗まれたと逆上する団長をなだめ、犯人探しをする3人。あっけなく犯人の少年イッサを見つけるが・・・。
多様な民族がそれぞれのイデオロギーを保ちながらギリギリのバランスで暮らすゲットーに充満したルサンチマンに火を放つのはほんの些細な出来心。崩壊の序曲が高らかと奏でられる中に佇むイッサの瞳に浮かぶ何かに魂が揺さぶられます。本作全編に漲っているものに似たものは世界中に漂っていて、それはマスクをするしないのような小さな種火であってもあっという間に燃え広がる。そんな絶望と背中合わせで生きる我々にできることは何かを終幕後にじっくり考えさせられる作品。抜け出すことの出来ない貧困が横たわる廃墟のような街での2日間をリアルに描き出すラジ・リ監督の憤りと優しさを湛えた演出が深い余韻を残します。
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