劇場公開日 2020年2月28日

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「ラジリ監督、長編デビュー作とは思えぬ熱量」レ・ミゼラブル マエダさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ラジリ監督、長編デビュー作とは思えぬ熱量

2020年6月18日
iPhoneアプリから投稿

一つの街で起こった小さな事件が発端となって、全ての出来事が悪い方向へと進み、悲劇のドミノ倒しが最悪のゴールに向かって倒れていく様を描いた構成の見事さ。
登場人物一人一人がその街に根付いた徹底的リアリティ、街に孕むさまざまなトラブル、社会問題や思想、思惑の入り乱れ、大人と子供のカーレース、とまぁあっという間に映画のカオスに飲み込まれる。

これって多分、子供たちの視点から描いたらもう少し単純な勧善懲悪ものに見えると思うんだけれども、主人公の視点を善良な新米刑事にしてあえて警察側から描くことによって見事にその単純さを避けている。そしてそれが物語の緊張感やラストシーンに、見事に活きてくる。

この構成、長編デビュー作にしては凄すぎないか?と思っていたのだが、HPを見たところ彼は結構前から短編映画をいくつも撮っていたらしいことと、2005年のパリ暴動を経てからは自分の街をドキュメンタリー映画として数年間撮り続けているらしいことがわかった。
なるほど本作のリアリティは彼の長年のドキュメンタリーのキャリアによって培われてきた観察眼の賜物である。
言われてみれば新米警官の2日間の激動のドキュメントとして本作を見ることもできる。
そんで描かれていることも実際に起きたことに基づいているとのことで、そういった様々な街の現実をモンタージュのように切り貼りして映画脚本として物語を構成したものだと考えるとやっぱり構成は見事なものだが、前提としてこの人はドキュメンタリー監督としてとても優秀なんだなということがわかった。

今後、フランスのケンローチ的な存在になっていくのか、はたまた彼独自の作家性でまだ見ぬ怪物に突然変異していくのか、とても興味深い監督である。

冥土幽太楼