「人生をどう積み上げるかを考える映画。」家族を想うとき nekkaryさんの映画レビュー(感想・評価)
人生をどう積み上げるかを考える映画。
「家族を想うとき」人生は選択の連続だ。どんどん不幸になっていく家族を見て、何が悪かったのか、どの選択が間違っていたのかを考えたけど、答えは出なかった。
夫、妻、息子、娘。誰の立場で考えても悪意で選んだことなんてひとつもないし、そんなこと言ったら宅配ドライバーの仕事を選んだこと、それを選ぶような人生を積み上げたこと、そんな環境に生まれたこと、今の時代を生きていること、自分でどうにかできることからできないことまで全てが少しずつ間違ってる。どこに戻ってやり直しても、救えない。
家族4人ともがそれぞれにしっかり良心を持って行動していることに見る側は度々救われるけど、ボタンが食い違うように、目線が合わないまま貫き続ける良心は、空回り、疲れ、不幸を生む。働かないと家族を幸せにできない。仕事は家族が一緒にいる時間を奪う。仕事をせず、一緒にいるだけじゃ「万引き家族」みたいになるんだろう。それじゃ頑丈な幸せは手に入らない。
介護士のアビーと、足が動かないおばあさんの会話。
「こんなこともできなくなって、情けない」
「私はあなたから学んでる」
「まだ役に立てるの?」
「もちろんよ」
この映画で唯一、幸福を回してそれが上手く働いている場面だったと思う。辛さに耐えてひねり出したなけなしの幸福で、誰かを救う。涙が出た。
「急いでる」というアビーの言葉を聞きながら皿を落として食べ物をぶちまけるおばあさんも、意地悪をしてるんじゃない。ただ、寂しいから帰らないでほしいんだ。血も涙もないように見える宅配会社の元締めのハゲも、決して良い悪いでは測れない。この人の立場で、力づくでその場を回していくためには、感情抜きの絶対的なルールを作ってそれを守り続けるしかない。ここで線を引かなければ自分が破綻する。
時々ある場面の切り方が印象的だった。会話の途中でばっさり切れるところがあったり、答えが出ないまま場面が変わったり。妻の車を売るか売らないか、あの終わり方だってそう。どのシーンも、その後どうなるかは絶対的にわかってる。あえて写さず、こちらに想像させるから余計ずっしりくる。
この映画を見て、「誰も悪くない、社会が悪いんだ」とは言いたくない。みんなに都合が良い、完璧な社会で生きられる日なんてどれだけ待っても来ないだろう。
積み上げてきた人生で、選択は変わる。映画はまだ知らないいくつもの人生を体験させてくれる。人生をどう積み上げるか。それを考える映画だと思った。見てよかった。