「お兄さん、私を好きにしていいのよ。満足させてあげる。」鵞鳥湖の夜 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
お兄さん、私を好きにしていいのよ。満足させてあげる。
映像に作り手の美学を感じるこの映画。
発展した中国都市部からは遅れた、ローカルのリゾート地。そんな鵞鳥湖は、周辺自治体の管理責任もあいまいで、雑多な人間が入り乱れているようなヤバめな無法地帯。なんか、馳星周、大沢在昌の世界。躍起になってる警察権力も、逮捕時に射殺した容疑者(誰とは言わないが)の死体と一緒に記念写真を撮るくらいだから、どこか腐っているんだろう。
なんかね、残された妻子に金を残してやろうとする気持ちだけは本当のような気がするけれど、それがいろいろ裏切られていく様もまた、ノアール映画としての快感と思えればいいんだろうなあ。
かの水浴嬢は、元が美形なのに、短く刈り上げた髪には色艶などみじんもないが、それには理由があるのだろう。身を守る術なのか、単に衛生面なのか。クールに澄ましていながら、実は怖がりなのは、やはり虚栄を張っているのか。あの容姿のおかげで、いろいろと想像が逞しくなっていく。
吉田栄作似のチョウ。そうなるとは予想外。そして、謎めいたラスト。全編を通して、緊張感と浮遊感が混ぜこぜの感覚。どこかに、これは夢であって欲しい、と願いたくなる気持ちのままで。
コメントする