「「南方车站的聚会」(『鵞鳥湖の夜』の原題)と「白日烟花」(『薄氷の殺人』の原題)との対比」鵞鳥湖の夜 もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
「南方车站的聚会」(『鵞鳥湖の夜』の原題)と「白日烟花」(『薄氷の殺人』の原題)との対比
①前作『薄氷の殺人』で「中国映画にもこんな秀れたフィルム・ノアールがあるんだ!」と感激したが、残念ながら今回はそれほどの感激は覚えなかった。
②ただ、2012年の中国といえば、2010年にGDPで日本を追い越して世界第二の経済大国となり、国土のあちこちで新しい土地開発・インフラ整備がブイブイ進んでいた頃。その陰で開発から取り残された人々・社会の姿を赤裸々に描いている点では前作以上(現在中国ではご法度である筈の売春が“水浴嬢”という名を借りて堂々と行われていることなど)。ほんと中国政府がよく製作を許したなぁと思うくらい。
③本作は前作とあらゆる点で対称的である。前作の原題の意味するところは映画のラストまでわからない。本作の原題は逆に冒頭シーンのことである。前作は中国北部、本作は中国南部。前作はスケート、本作は水泳。前作の主人公は追う方、本作は追われる方。前作は男は女を捕らえることになる。本作は女は男を売ることになる。
④ミステリー仕立ての前作と比べて、本作は経済発展を続ける表の中国の陰で蠢くチンピラ軍団の縄張り争いが血で血を洗う抗争に発展していくヤクザ映画風。前作が(私が思うに)チャンドラーの『さらば愛しき人よ』を見事に換骨奪胎した中国版フィルムノワールとすれば、本作はギャングものが多いフレンチ産フィルムノワールに近いと言えるかもしれない。
⑤その分、物語性は少ないが、その代わりと言っては何だが夜の描写における映像美はハッとさせるものが多い。バイクで爆走する前方を横切って行く新幹線。何と『ジンギスカン』に合わせて老若男女が踊るシーンでの光る靴(後ほど踊る群衆の中に刑事たちが紛れていたことが判明する小道具となる)。夜の動物園のフラミンゴ。夜の湖に浮かぶボートの上で上掛けを取ったときにルイ・グンメイが着ていたオレンジと白とのツートンカラーが鮮やかな水着。話の内容より映像がこの映画が正統な「フィルムノワール」であることを物語っている。
⑥あと、フー・ゴー扮する男が人生最後の食事となる“牛肉面”を貪るように食べるシーンも印象的。
⑦冒頭の雨の駅のシーン(南方车站的聚会)で男と女とがそれぞれ何故この場所に居るのかを回想シーンで語るのはフィルムノワールの常套手段だが、果たしてそれは本当に嘘のない回想であったのか?ラストの女二人のシーンからは実は最初から女二人が仕組んだ芝居だったのではないか、とも勘ぐれば勘ぐれる。
⑧ラストのクレジットに流れた驚きの「ブンガワンソロ」!果たしてどういう意味があってこの歌を選んだのだろうか。