「意外性が有る怒涛の展開のミステリーであり、階層構造打破を若い世代に託す信号も発信」パラサイト 半地下の家族 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
意外性が有る怒涛の展開のミステリーであり、階層構造打破を若い世代に託す信号も発信
まずミステリーとして、相当に面白かった。IT企業社長宅で家族皆が集まり、幸せに酔っ払っているところは、社長達が帰って来ないかと、ハラハラしてしまった。そして、チャイムが鳴ってからの怒涛のストーリー展開は、意外性もあり良い意味で驚かされた。
社長達家族が急に帰ってくる事になり、チェ・ウシクは家庭教師相手の娘のベッド下に隠れるが、イヌが気が付きあわや・・。更にその後、ソファの下に父と子供達3人は隠れるが、その上で社長夫妻が絡み始める展開は、時計回り言及(もっと進めて!)も含めて、ユーモラスで笑えた。
更に、社長の息子が描いた惨劇を予言した様な絵、水に浮かぶ山水景石、社長娘が頭を殴打された家庭教師を運び出す映像等、とても気になる描写が有ったが良く理解出来ず、結局3回見る羽目になった。結論として、とてもよく練られた映画だと改めて感心させられた。
ポン・ジュノ(スノーピアサー等)監督による2019年公開の韓国映画。脚本はジュノ監督ととハン・ジンウオン。撮影はホン・ギョンピョ、音楽はチョン・ジョイル、編集はヤン・ジンモ。
出演はソン・ガンホ(父親)、イ・ソンギュン(社長)、チョ・ヨジョン(社長妻)、チェ・ウシク(息子)、パク・ソダム(娘)、チャン・ヘジュン(母親)、イ・ジョンウン(家政婦)、パク・ミョンフン(家政婦の夫)、チョン・ジソ(社長娘)、チョン・ヒョンジュン(社長息子)。
ソン・ガンホ宅は豪雨で家が完全なる浸水状態になり、3人は体育館に避難。一方、社長宅では優雅にパーティが行われようとしていて、一家の貧しさと格差が強調される。下水道からトイレに逆流する様を見せる洪水描写は誇張すぎるとも思ったが、実はリアリティが有るらしく驚かされた。韓国の人口の約2%に当たる38万3千世帯が、あの様な半地下に住んでいるらしい。撮影も家屋内以外は、ソウル市内のロケで行われたらしい。社長宅からの帰り道、下へ下へ降りて行く象徴的な階段やトンネル等、ソウルの絵になる景観が実に上手く活用されていた。
洪水の後、家庭教師していた息子が水に浮いた山水景石を持ったまま体育館に逃れ、更に社長宅の地下へ運ぼうともする。財運をもたらすとの触れ込みであったが、重さが無い偽物の様であり、実力や実体が伴わない計画・夢想を象徴するものか。最後には、あの岩は、息子チェ・ウシクの意思により川に捨てられる。彼の地に足がついた計画実行の決意表明とも解釈できた。
社長の下層階級の臭いへの反応から、怒りが込み上げ無計画に殺してしまうソン・ガンホ、社長を盲目的にリスペクトし元家政婦をしていた妻にされた仕打ちの復讐なのか絵の先生パク・ソダムをいきなり包丁で刺し殺すパク・ミョンフン。ありふれた映画とは異なり、下層階級の人間の衝動に動かされる駄目なとこが容赦なく描かれていて、少々驚かされた。同時に、この世代の格差解消や階級超えた交流の困難な現実を、シビアに描き出していた。
対照的に、社長娘及び社長息子世代には階級差解消への希望が描かれていた。娘は家庭教師ウシクとキスをし、彼の気持ちを慮り、更に頭を殴打され出血のウシクを自らおんぶして懸命に運び出し命を救う。そして、社長息子の方は下層階級を十把一絡げに臭いとはせずに、一人一人の匂いを識別していた。そして元家政婦と心を通じメール連絡もしていた。
とすると、社長息子による誕生日に屋外でのテント張りは、惨劇予言ではなく、絵を知っている元家政婦のサジェスチョンによるものか。その行為の目的である?パク・ミョンフンによる電灯によるモールス信号送信も、社長とは異なりほぼ解読しかけていた。
社長息子のブーム、インディアン扮装も、単に無邪気な遊びというよりも白人に虐げられた存在への共感を象徴するものか。そして、モールス信号を一方的に送るソン・ガンホとパク・ミョンフンは、隠れたメッセージを含む娯楽映画を作り続けるボン・ジュノ監督の分身?社長息子もウシク息子も、そのメッセージを受け取ってくれ、次に社会を変えてくれる若い観客を象徴する存在に思えてきた。
成る程、娯楽的ミステリー要素と社会メッセージ的要素を見事に合致させていて、監督の力量の高さ・凄みを感じた。仏及び米国での賞受賞も頷けた。