「ギャグ表現抜きのこち亀」パラサイト 半地下の家族 歯車農場さんの映画レビュー(感想・評価)
ギャグ表現抜きのこち亀
ポン・ジュノ監督が凄腕であることはこれまでの作品を知っていれば言うまでもない。しかし設定への細かいこだわりの割に脚本は結構粗があって、整合性がとれなかったり風呂敷広げたまま上手く着地出来ないこともあるタイプという印象が拭えない。今回もそう感じた。
今回の映画はやや引いたような画が多く、客観的・構造的に事の成り行きを眺めるようなつくりになっている。
コロコロとジャンルを変えながらジェットコースターのように話が進んでいく作りで、誰でもどこかは面白く感じるだろうという手数勝負な映画。破綻しやすいジャンルとジャンルの繋ぎ目、色々な要素の混ぜ方が自然で、監督の器用さ、技術力が光っています。
内容的には社会派映画みたいな評もあるが、そんな映画ではない。作品を貫く対比構図を象徴する装置として貧富格差を利用しているだけだ。
この映画に格差社会や新自由主義への批判なんて言葉が並ぶことに驚きを隠せない。これには監督も大統領も笑いが止まらないだろう。
基本的にはこち亀的な、どうしようもない連中が濡れ手で粟を狙って大成功→大失敗への転落モノ。こち亀と同じく度を越した強欲と、似た者同士で蹴落とし合う事で失敗する。
問題はこち亀はギャグだがこの映画はギャグではないという点。ギャグみたいな流れで繰り広げられるバイオレンスやエロが生々しく痛々しい。これをある種のスキャンダラスなリアリティ演出と捉えるか、下品と捉えるかは評価が分かれるところ。
個人的には如何にも韓国映画的だと理解しつつ、やっぱりくどく感じるのでマイナス評価。
貧乏娘はパンツ生脱ぎ、母は尻揉み、家政婦はゴム、金持ち長女は甘えたキス、奥様はネットリお触り。出て来る女性全員に性的な描写挿れるのも、最後にみんなで殺し合いするのも醒めるポイントで「よくやるね。でもこれ必要あるかな?」というツッコミと冷ややかな笑いが出てしまう。
象徴的な台詞や映し方、宙ぶらりんのメッセージでずっと深味を演出するが、私にはそれが噛んだ瞬間パッと味がするけどすぐに無くなる安いガムのようにしか思えない。それに噛み続けてみようと思わせるモチベーションも湧かない。
映画の技術的な巧さを重視する人は高評価になる映画だと思います。それは確かに素晴らしいです。しかしストーリーの一貫性や重みを重視する人にとっては低評価だと思います。