「恐るべきギフト・未来力診断ツール」パラサイト 半地下の家族 久遠洋人さんの映画レビュー(感想・評価)
恐るべきギフト・未来力診断ツール
ポン・ジュノ監督は凄い映画を撮る人なのではなく、映画を使って世界に罠を張る凄い人だと知った。
監督は世界に新たな格差を持ち込み、地球を富や赤道線とは別のラインで分断しようと試みている。
そのために公表されたこの作品は実際は映画などではなく、未来が視える人と視えない人とを明確にふるい分けられるよう設計された超便利ツールなのである。
まずは監督がなぜラストシーンをわざとエンタメ的には「つまらなく」仕上げたのか、自作品の表面的完成度を犠牲にしてまでやったことが何なのか、という疑問を持てないと話にならない。
ストーリー上の衝撃の結末を用意しなかったのは、我々の前にあるスクリーンが時間差で映る鏡であるという啓示に他ならない。
「えっ凄いオチどこ?」
「は?映画でも観ているつもりですか?これはIF未来の再現ドラマだし、俳優たちはあなた方の役を演じているんですよ?」
前半笑いながら格差問題の重大性をなんとなく見過ごしているうちに、後半でそれが洒落にならない事態に帰結する過程を目撃させられる。現実世界が今の調子で進んで行った場合十分起こりうる、富む者と富まざる者とが相互理解も共存も意志疎通も諦めて滅ぼし合わざるを得なくなる修羅界を我々はスクリーンの前で、娯楽映画に偽装された実写ドキュメンタリーをも越えるシミュレーション的何かによってまんまと体験学習または社会科見学させられたのである。
その上でまだ
ええこれでアカデミー賞?
あっと驚くラストなし?
前半のがまだ面白くね?
といった「事前に書かれたセリフ」を監督に言わされそこで思考を止めている人こそが格差世界の完成に不可欠な「全面協力者」で要注意人物達なのだということを、この作品を使って今後我々は簡単に見分けられるようになった。本当に便利なものが手に入った。
ぜひぜひ、この作品を「映画である」、しかも「娯楽映画である」、しかも「言うほど面白くない娯楽映画である」 とポン・ジュノ監督に騙されている人がまだまだ大勢いるうちに、同じ手法の別テーマのツールも更にいくつか創って我々に与えてもらいたい。富まざる者の中でも更に、持てる者と持たざる者との新たな格差が広がることになろうとも。