「陽のあたる邸宅の地下、仄暗いボロ家の青天井」パラサイト 半地下の家族 マユキさんの映画レビュー(感想・評価)
陽のあたる邸宅の地下、仄暗いボロ家の青天井
柄谷行人は、夏目漱石『坑夫』、有島武郎『或る女』に言及しながら、そこに描かれた階級意識を論じた。特に有島の『或る女』について、船の甲板と船底という上下構造が、「支配/服従」「上層/下層」「男/女」という権力関係を象徴的に表している、と指摘した。
そう、「象徴的」に。
本作は、高台の邸宅に暮らす富裕なパク一家と、貧民街の半地下のボロ家に暮らすキム一家の社会的階層を視覚的構造で見せて、その対照性、つまり「格差」を感覚的に伝える。また、キム一家の人々に独特の「匂い」がある、と描くことで、彼らの置かれた環境を生理的に伝える。
こうした、論理というより情動、思考というより生理に訴える演出が、ラストで、なぜキム・ギテクがパク・ドンイク社長を手にかけたか、瞬時に観客にわからせることに成功している。
経済的格差や貧困の問題を描いた近年の作品、是枝裕和監督『万引き家族』、トッド・フィリップス監督『ジョーカー』、ケン・ローチ監督『家族を想うとき』などと比較して、『パラサイト』が特異なのは、格差社会の構造を一望して、貧困層の苦境だけでなく、富裕層の危機感をも取り上げたところだ。貧困ゆえの問題や苦悩は、多くの作品で描かれている。DVや犯罪、教育機会の不平等や政治の失敗など、個人、家族、社会それぞれのレベルで見つめられてきた。本作は、もちろん貧困層の苦悩を描くが、安穏としているかに見える富裕層も、実は苛烈な競争社会から自由ではないことが示唆される。高台にある豪邸の地下には、誰も気づいていない「危機」が眠っている。その危機が、いつか破滅をもたらしにやって来る。
韓国社会の切迫した状況が、鬼気迫る本作を生んだのだ。