「美しいものは高く上がる。汚いものは下へ下へ流れる。」パラサイト 半地下の家族 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
美しいものは高く上がる。汚いものは下へ下へ流れる。
衝撃的なほど面白かった。
無職の4人家族が、裕福な一家に文字通り「寄生」していくという設定の妙に始まって、面白いほど簡単に金持ち一家を乗っ取っていく手際の良い演出と、そこから彼らの身分が知られてしまうか否かの展開に入っていくことは火を見るよりも明らかながら、実際の物語は少なくとも私の想像を遥かに超え、また小さな伏線の数々が絶妙に絡まりながら巧みに解けていくのが快感ですらあった。モールス信号、貧乏人の臭い、小さな小道具の数々・・・すべてが物語をすり抜けていく中で重大な鍵となり、効果的に機能しながら想像を超えた内容に発展していく。
私のような凡人の頭で考えたら、一家が身分を知られまいと嘘を重ねていくコメディを思いつくのが関の山。下手したらプロの脚本家さえ、地下室に隠された棲み処を発想するまででアイデアは終わってしまうかもしれない。しかしポン・ジュノはそこから先へと着想とストーリーを発展させる。そしてなるほどポン・ジュノがこの映画を通じて描きたかったのはこういうことだったのかと大いに納得する。一家が「半地下」に住んでいることさえも、伏線だったと気づくとほぼ同時に。
地上の暮らしは光が当たって暖かで大層平和である。一方で地下の暮らしはジメジメと薄暗く寒々しい。誰もが地上の豊かな暮らしに憧れるし、本来誰にでもそれを手に入れるチャンスはある。しかし一度何かの拍子で足を踏み外したりレールを踏み外したりすると、あれよあれよと地下へと転げ落ちてしまうことがある。一度地下に落ちてしまうと、そこから地上へを這いあがることは容易いことではない。美しいものは大抵高い方へ高い方へと上っていくばかりで下々の方へは届かない。その代わり、地上から掃きだされた汚いものだけは下へ下へと流れてきて、溢れ出る下水に塗れながら煙草を吸わされたりするのだ。
この映画には、画に描いたような「地上」で暮らす人と、「地下」で暮らす人と、「半地下」で暮らす人が存在し、下へ落ちた者はいても上へあがることを許された者はない。辛うじて「天上」に召された者がいるだけだ。やりきれない。けれどもこういった広がりゆく格差の問題は、韓国だけではない社会の厳しい現実であり、冷酷非情な社会の縮図そのものだと実感する。
パルムドールやらアカデミー賞やらといった情報が先走ってしまうと余計なフィルターで作品を観られてしまいそうで不安だが、私的にはこの映画はブラック・コメディとして楽しむのが正解だろうと思う。特に前半部分などは娯楽性を湛えた小気味良さがあるし、思わず吹き出してしまうようなブラック・ユーモアで溢れている。しかし気が付けば、現代の社会を鋭く風刺したテーマが胸の中に浮かび上がるという巧妙な仕組み。戦慄くくらい面白かったし、映画を終わった後もしばらくこの作品のことを考えていた。
作品を観てソン・ガンホのオスカー候補入りを切願していただけに候補漏れは残念無念だった。でも素晴らしい存在感でした。