「81歳の熟練の技」シチリアーノ 裏切りの美学 Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)
81歳の熟練の技
度肝を抜く法廷シーンも圧巻だが、ブシェッタの内面の描写が面白かった。
飛行機の中では置いてきた息子たちの亡霊にうなされ、らせん階段では地獄に堕ちる気配を感じ、悪夢では身内の死者たちによって自らが葬られる。
「自分のベッドで死にたい」ブシェッタは、自分の内部の「死」に怯えている。
一方、マフィア撲滅に人生を捧げたファルコーネ。ブシェッタの回想を「凶悪なマフィアを美化する伝説」と一蹴し、「死ぬときは死ぬ」と言う知性の人。内部に死など存在しないから怯えない。「死」は外部からやって来ることをどこか覚悟しているようだった。
高速道路爆破のシーンは、まさかの車内目線。まるで自分が後部座席に座っているような体験だった。死が外部からやって来ることを一瞬で理解させた。
では、16歳のブシェッタが命じられた標的の男はどうだろう。
息子を無事に結婚させた男は、いよいよ刺客が来るのを待っているようだった。月を眺める男の視線が印象的。彼は「死」が外部からやって来ることを知りつつ、内部の死神と対話しながら受け止めていたに違いない。
ドキュメンタリーではない。史実だけでは伝わらない想像力。他のマフィアものとは一線を画す繊細さがあった。映画はこうでなくっちゃね。
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