「スカッとするところが皆無の実録物」シチリアーノ 裏切りの美学 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
スカッとするところが皆無の実録物
1980年代のイタリア・シチリア。
マフィア間では麻薬取引から抗争が激化し、新旧世代の入れ替わりの時期でもあった。
一兵卒からのたたき上げトンマーゾ・ブシェッタ(ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ)は、聖人の祝いの席を利用して抗争の仲裁に努めるが失敗、危険を感じてブラジルへ逃走する。
しかし、イタリアに残った仲間や息子たちが次々に暗殺されていき・・・
といったところから始まる物語で、その後、ブラジルで逮捕、本国へ送還されたブシェッタは、マフィア撲滅を図るファルコーネ判事(ファウスト・ルッソ・アレジ)に協力、仲間内からは「裏切者」の汚名を着せられるが、組織の堕落がブシェッタ自身の誇りを傷つけている義憤から発したものだったことがわかってくる・・・と続きます。
70年代には『ゴッドファーザー』をはじめ数多くのマフィア映画も作られましたが、その中には『コーザ・ノストラ』というものもありました。
コーザ・ノストラとマフィアの区別は個人的には判然としないのですが、ブシェッタにとっては全く違うものであるようで、前者はコーザ・ノストラの意味どおり「我々のため」にある組織であり、血族関係などを中心とした共同体です。
一方、マフィアは、暴力その他犯罪を使って利益を上げる組織であり、そこには共同体意識ではなく、利害関係しかない。
前者には「義」はあるが、後者にはない・・・
つまり、裏切ったのは自分ではなく、他の者全員だ、というのがブシェッタの理論です。
なるほど、任侠映画みたいですね。
ですが、映画は、娯楽映画とは一線を画すつくりで、血みどろの殺し場面や無秩序ともいえるような法廷場面など、娯楽的要素はあるものの、強烈すぎて娯楽ではない。
場面場面が、オペラのような音楽で彩られながらも、鉈でぶった切ったかのような繋ぎ。
その上、時間軸も前後し、出ては殺され、出ては殺されで、誰が誰やら不明。
誰が誰やら不明なのは、個人の恨みつらみの復讐譚を描きたいわけではなく、暴力が渦巻いていた時代そのものを描こうとする意図的なのだろうと思うので、あれは誰?とか思っちゃいけないのだろうね。
ということで、スカッとするようなところが皆無。
いわゆるノワール映画とは違う次元に到達した映画のようで、面白いといえばいえるが、なんだこりゃ?という観客もいるだろう。
それにしても、これが実話なのだから、イタリア畏るべし、恐ろべしい。