「まさか今の日本と重ねて観てしまうとは!」シチリアーノ 裏切りの美学 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
まさか今の日本と重ねて観てしまうとは!
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いくばくか歴史の知識やシチリアのマフィアについて知っていないと分かりづらいところはあるものの、実話ベースに描かれる内部告発の物語は非常に興味深く、法廷劇となる中盤も、日本ではありえない裁判の姿に驚きつつ、面白さに惹き込まれる。
しかし、なぜベロッキオは80年代から20年くらいのスパンのこの実話を、いま映画にしたのだろう? 正直イタリアの世相に詳しくないのでそこのところはよくわからないのだが、現在とのリンクを考えていたせいか、日本の姿と被るところが多くて空恐ろしくなった。
トンマーゾ・ブシェッタは、沈黙の掟を破り組織を裏切った理由について、「裏切ったのは自分ではない、昔の仁義を失ったボス連中が裏切った」という意味の発言をする。しかし、旧来の価値観を持つマフィアや一部の民衆はブシェッタを恥ずべき裏切り者として蛇蝎の如く嫌う。
自分は今の日本が、政府の犯罪まがいの為政によって劣化したと感じている。が、それに対して批判的な人たちが、情緒的な理由で国の裏切り者でもあるかのように叩かれる姿を目にしてきた。劇中の20親等皆殺しみたいな凄惨な事件は起きていないが、それでもイタリアは裏の権力者である彼らを終身刑にするところまでこぎつけた。社会が機能するとは、こういうことではないか。
そして密告者となったブシェッタが語る大義名分を全肯定せず、正義に目覚めた元マフィアみたいな短絡的な描き方をしなかったことも本作の優れた点だと思っている。
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