ペイン・アンド・グローリーのレビュー・感想・評価
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なんだかいろいろと救われる作品
三つ子の魂百までというが、躁鬱質、癲癇質、分裂質という3つの気質と強気、中気、弱気の3つの気性についてはその通りだと思う。この9マスのマトリックスの分類からは誰も逃れられない。加えて幼い頃の五感にかかわる思い出は、歳を経ても色褪せることがない。
幼少期の思い出の中には、決して人に話せないことがある。心に刺さった棘のように不快で、時には炎症を起こして激痛を齎すこともある。そういう思い出を心の奥深くに潜めている人は少なからずいるだろう。
それでも絵を見たり本を読んだりして、人は屢々癒やされる。映画もそのひとつだ。そして幾人かの人々は自分で絵を描き、小説を書き、あるいは映画を作る。そうして誰にも言えない自分の傷跡を覗き込んでは痛みの向こうにあるものを見ようとする。産み出された作品は、同じように心に棘を持つ人を癒やすことができるかもしれない。
芸術はどこかで共同体のきまりに反したり、世の中のパラダイムに背くものだ。それはとりもなおさず心の傷が人に言えない理由に等しい。恥、禁忌、異端などを自覚したことによるうっすらとした息苦しさが、人をそこはかとなく苦しめる。そして芸術に向かわせる。夏目漱石が同じようなことを「草枕」に書いていたのを思い出した。
本作品の主人公サルバドールもまた、心に刺さった棘に苦しむひとりである。おまけに坐骨神経痛などの様々な痛みに苦しんでいる。坐骨神経痛は長時間歩き続けられないし、踏ん張りが効かなくて足も上がらなくなる。若い頃空手で鳴らしていた人でも、坐骨神経痛になると回し蹴りはおろか前蹴りさえもままならない。身体がうまく動かないと気が弱くなる。だから逆に虚勢を張りたくなる。
思い出と老化と身体の痛みと過去の栄光と将来の不安。様々に苦しむサルバドールだが、32年前の映画の再映をきっかけに動きはじめる。知人の助けと偶然の助けがある。心の傷は芸術への原動力だ。行動するには痛みが邪魔だが、意欲が失われた訳ではない。
なんだかいろいろと救われる作品だった。人生も半ばを過ぎて来し方を振り返り行く末を案じる歳を経た方々には心に響く映画だと思う。
人生の棚卸し映画
ペドロ・アルモドバル監督の新作「ペイン・アンド・グローリー」を観た。心身の不調に苦しむベテランの映画監督が、初めてのヘロインにラリってしまい人生を回顧する。それは仕事のこと。仕事仲間のこと。愛した男性のこと。そして何より、今は亡き母親のこと。いわば人生の棚卸し映画である。
それでも、全編を通じてお涙頂戴に陥らず、どことなくコミカルでさえあるのは、アルモドバルの手腕であろう。主演のアントニオ・バンデラスの演技が素晴らしい。枯れているが茶目っ気があり、男ながらに惚れ惚れしてしまう。赤や緑の原色の衣装も格好良い。足元にも及ばないが、こんな歳の取り方は理想的だ。
そして、特筆すべきは見事なラストシーンである。セリフや音楽は何も必要としない。映像だけで全てが語られる、まさに映画としての醍醐味。ここには監督の愛が満ち溢れているし、母親役のペネロペ・クルスは美しさが際立っている。
随分と懐古的になってきた
先週金曜日の1本目 ペドロ・アルモドバル監督の 『ペイン・ア...
先週金曜日の1本目
ペドロ・アルモドバル監督の
『ペイン・アンド・グローリー』
ペドロ・アルモンドバル監督の作品は
「オール・アバウト・マイ・マザー」
「私が、生きる肌」
しか観たことないんですけど、
珍しく日本版ポスターが素敵でどんな内容なのか公開を楽しみにしていた作品。
本作、ペドロ・アルモドバル監督の自伝的なお話しだそうで、劇的な展開があるわけではないんですが、作品に登場するインテリアや色彩の芸術的なところとストーリーに感じられるノスタルジックなところがじんわり心に染みてくる素敵な作品でした。
主人公の映画監督サルバドールを演じるのはアントニオ・バンデラス。
なんでしょう、生気を失った感がある役なのにその枯れた表情に物凄く惹きつけられる。昔のバンデラスは物凄く苦手だったんですけど、最近のバンデラスさん本当に素敵な表情で魅せてくれるなぁ。
本作品でカンヌの男優賞を獲ったのも納得。
そしてペネロペ・クルスの美しさ。
ペネロペの笑った顔と少し苦労がにじみ出る表情がバレンシアの白さに映える。
主人公のサルバドールの幼少期を演じた
アシエ・フローレスくんの表情も素晴らしかったなぁ。彼のキャリアを検索してもほぼ情報が無いんですが、ジェイコブ君、ノア・ジュプ君に続く逸材な気がする🤔
出来ればもう一度観たいなぁ。
いやだ。そんなバンデラス見たくね。
中毒ですって
ペドロ・アルモドバル = アントニオ・バンデラス。アルモドバル監督...
ペドロ・アルモドバル = アントニオ・バンデラス。アルモドバル監督の
この自伝要素のある作品は、タイトルから想像した以上に"痛み"が多く、彼の作品常連で見た目からよく似せているアントニオ・バンデラスと母親役ペネロペ・クルスがそれを支えている。作中では遅咲きデビューなヘロイン使用者になる彼の見事な演技は、本当に僕たちをこの映画に引き込んでくれる。主人公サルバトーレは全身にあらゆる病や苦痛を抱え患っているが、日中は無神論者で、夜になり頭痛で眠れなくなると神に祈るらしい。それを表すように枕など下に敷いて膝をつく仕草が何度も出てきたのが印象深かった。"風味"と"中毒"。例えばホドロフスキーが、例えばウディ・アレンが、各々やり方こそ違えど、自作 = スクリーンに己(の人生)を投影した登場人物を出したり、自伝的作品を作ったりすることがある。それが素晴らしい作品を手掛けてきたベテランであればあるほどに中身も濃厚なものに、またそうした成熟したものを期待してしまうわけだけど、本作もまたそれら傑作群に引けを取らない見応えのある一本だった。これは人生の苦楽を、酸いも甘いも、悲喜こもごも、とりわけ悲しい別れなど辛い時期を乗り越えた者だけが到達できる名匠の仕事。だから自分にはまだ幾分早かったかもしれない
スペイン版『ニュー・シネマ・パラダイス』と思っていたら・・・
主人公が映画監督でサルバトーレという名前が一致していただけだった。それでも回想録部分では映像も綺麗で心地よく鑑賞することができた。現代の監督(アントニオ・バンデラス)パートはどことなく薬物の話が中心となってしまい、半自伝的だと思われるのですが、釈明的・自嘲気味に描いていました。
多分、喉がつまるという精神的苦痛を和らげるためにヘロインに手を出し、やめられなくなってしまい、皮肉なことに30年前の主演俳優アルベルトに対しても露骨な態度をとってしまうサルバトーレ。せっかく「中毒」というピッタリの台本で演技してもらったというのに・・・また孤独になっちゃうよ。
好きだな~と感じるのは幼少期の回想パート。家に金がないからと神学校に入れられるも聖歌隊のソロをまかされるほど重用され、他の科目を受けなくてもよくなったとか。それでは勉強できなかったんじゃ?と思うのに、壁塗り職人エドワルドに対しては読み書きや計算を教えるほどだったのです。
ゲイに目覚めるのは神学校に入ってからだったのでしょう(『バッド・エデュケーション』参照)けど、エドワルドの入浴シーン(uncensored)には少年サルバドールも胸の鼓動が抑えられなくなって熱まで出しちゃいました。
結局、一番良かったのがこのエドワルドとのエピソードだっただけに、現代パートの良さがまったく伝わってこなかった。これも苦悩する監督自身を表していたのかもしれません。ただし、ラストを見る限り、まだまだ映画製作意欲があるのだと感じられてよかったです。
#35 タイトルが2個あったような
『痛みと栄光』がタイトルだけど、もう一つ『初めての欲望』っていうのもあって、どっちが何のことかは観てのお楽しみ。
痛みは身体のことなのか心のことなのか。
この監督の映画っていつも突然あっさり終わるけど、今回のエンディングはまだわかりやすくて良かった。
バンデラスもペネロペもスペイン語の演技のほうが断然好き❣️
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