「人生の棚卸し映画」ペイン・アンド・グローリー 久保田 信吾さんの映画レビュー(感想・評価)
人生の棚卸し映画
ペドロ・アルモドバル監督の新作「ペイン・アンド・グローリー」を観た。心身の不調に苦しむベテランの映画監督が、初めてのヘロインにラリってしまい人生を回顧する。それは仕事のこと。仕事仲間のこと。愛した男性のこと。そして何より、今は亡き母親のこと。いわば人生の棚卸し映画である。
それでも、全編を通じてお涙頂戴に陥らず、どことなくコミカルでさえあるのは、アルモドバルの手腕であろう。主演のアントニオ・バンデラスの演技が素晴らしい。枯れているが茶目っ気があり、男ながらに惚れ惚れしてしまう。赤や緑の原色の衣装も格好良い。足元にも及ばないが、こんな歳の取り方は理想的だ。
そして、特筆すべきは見事なラストシーンである。セリフや音楽は何も必要としない。映像だけで全てが語られる、まさに映画としての醍醐味。ここには監督の愛が満ち溢れているし、母親役のペネロペ・クルスは美しさが際立っている。
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