「犠牲者なし、は事実と異なる」罪の声 川柳児さんの映画レビュー(感想・評価)
犠牲者なし、は事実と異なる
長文になるので、面倒な方は、スキップすることをお勧めする。
1月15日に某映画館で鑑賞。
公開からすでに2カ月半。感想もほぼ出尽くした感があるように、今更鑑賞する人もわずかのように思う。
入った映画館でも、それなりのキャパにもかかわらず、公開終了間際故か鑑賞者は5人程度だった。
自分は当時の事件の報道にリアルタイムで接していた。しかし、それだけではない。
犯人グループが、一番初めに身代金の要求をした公衆電話のすぐ近くに、自分は当時住んでいた。
つまり、この事件の”劇場”であるエリアは、自分の生活圏だったのである。
故に、当時マスメディアによって伝えられた情報は把握していたし、かつ、この映画の原作は読んではいないが、1996年刊 一橋文也著「闇に消えた怪人 : グリコ・森永事件の真相」によって更なる知識を深めたものである。
その自分が、結論として感想から伝えると、この映画「罪の声」は自分にとって、「面白く、見ごたえがあった」と言える。
一方、この作品に対する評価が低い方々の意見は、大体下記のように収斂されよう。
*「真相に迫る」と謳ってはいるが、実際の内容はそうではない。
*演者の技量や特に関西弁が我慢ならない(演技については賛否両論あってしかるべき。ただ関西弁については、明らかにヒドイ。酷すぎる)
*製作者側が伝えようとするテーマや意図が分からない。
もちろん、感じ方は人それぞれであるから、低い評価をする人たちに対して無理無理反論するつもりはない。 またその考えを否定する意図もない。
しかし、未だに犯人が特定されていない以上、つまり真相が分からない以上、もしかしたら、この作者の考えが真相に最も近いのかもしれない。「真相を暴く」ではなく、「真相に迫る」なのだから、あながち「嘘」ではない、と自分は考える。
また、製作者側から提示されるテーマや意図を、無理にくみ取ろうとする必要性も感じず、「こういう事実があった」「そして、その裏にはこういう事があったかもしれない」という事を知るだけで充分ではないか。
(この事件を知らない人たちに、知ってもらう意図としては、少なくとも成功しているわけだし)
ただし、知ってもらおうとする場合、「事実」と「推測」ははっきりさせておくべきであろう。
また、この作品の中で、触れられていない事実も見逃すべきではない。
1)事実
*当時の府警や県警は、自分たちの縄張り争いに終始しており、連携を取っておらず、犯人を捕まえるチャンスを数回逃している。
*キツネ目の男を捕まえる事が出来る程の距離まで、現場の警察官たちは迫っていた。職務質問等で身柄を確保したい現場の警察官たちに対し、一網打尽を狙った上層部はそれを許さず、ここでもチャンスをつぶす。
2)ほぼ事実に近い推測
*犯人グループの中での仲間割れは、おそらく実際に起こっていたのではないか、と警察もマスメディアも見ていたようである。一橋文也の著書にも「途中で首謀者が変わった」との記載がある。
3)この映画の中で触れられていなかった事実
犯人の一人が乗っていたと思われる不審車両を取り逃がしたとされた滋賀県警の本部長が、1985年8月7日、自身の退職の日に本部長公舎の庭で焼身自殺をする。
この焼身自殺をきっかけとして、その後、犯人グループは事件の終息を宣言し動きを止める。
この事実が、この映画では全く触れられておらず、自分としては残念に思っている。
(犯人グループは、初めから人を傷つけたり殺したりする意図はなく、金だけが目的だったのではないか、と自分は『推測する』。)
今回のこのレビューの「犠牲者なし、は嘘」とはこの意味である。
(生島望の交通事故?の事を指したのでない)
この事件は迷宮入りとなり、犯人グループが逃げ切ったというのが大方の見方であろうが、この映画にあるように、もしかしたら、犯人グループやその周辺の中には、その後、実際に不幸に見舞われた者もいるかもしれない。もしかして未だにずっと、罪の意識に苛まれて贖罪の念を持ちながら生き続けている者も居るかもしれない。
その者たちに、この映画はどのように届き、訴えるのだろうか?
非常に興味を感じるところではある。 しかしそれは、知る由もないが。
初っ端に、いい作品だと褒め称えたが、もちろん不満なところもある(関西弁以外にも爆)。
最後の終わり方や編集が、イマイチだった。
いつ終わんの? え、まだ続くの? え、最後それで終わるの? その編集、なに?、と突っ込んだ爆
さて、長くなってしまったが、そろそろ締めくくりたい。
曽根俊哉から伯父である達夫に対するメッセージ。
「あなたみたいには、ならない」とは???
あなたみたいに 「卑怯な人間には」ならない なのか?
あなたみたいに 「人を不幸に陥れる人間には」ならない なのか?
最後の最後に、この映画が投げかけてきた問いかけの答えは、迷宮入りである笑
PS
この映画に出てくる英国の街ヨークは、自分の友人が日本から移り住んでいる街。
偶然とはいえ、少し鳥肌が立った。