「罪の声」罪の声 重金属製の男さんの映画レビュー(感想・評価)
罪の声
このレビューでこの映画もとい原作小説が基にした実際に起きた事件の名前を出すのはタブーだろうか。2016年に原作が出版され、その中身の濃さに引き込まれてあっという間に読破してしまったのを覚えている。件の事件についてはWikipediaで得た知識しか持ち合わせていなかったが、その事件が想像を絶するほど日本中を震撼させたであろうことは、当時まだ影も形もなかった私ですら容易に想像できる。
その事件における直接的な犠牲者はいなかったという。しかしながら今作でスポットを浴びた「犯行に使われたテープに録音された子供の声の持ち主の人生」を想像した人が当時どれだけいたのだろうか。曽根俊哉のように何も知らないまま大人になり、幸せな家庭を築いたかもしれないし、生島姉弟のように凄惨な人生を強いられていたのかもしれない。単なる「子供の時分に声を録音されたテープ」ではないのだ。「日本中を震撼させた犯罪に使われたテープ」なのである。いわば彼らは陰の犠牲者なのであり、この事件において「犠牲者なし」と言い切るのはあまりに軽率なことだろう。どんな事件も様々な角度から光を当てるべきなのである。コロナウイルスが流行し、不安を煽るかのように偏った報道をする、そんな昨今のジャーナリズムの在り方を正そうと奔走したのが阿久津英士なのではないだろうか。かつていち新聞社が真相解明できなかったことだけが問題ではないのだ。
2000年に時効を迎え、すべてが迷宮入りしてしまった未解決事件。詳らかにならなかった現実を塩田武士氏が補完した作品というイメージ。ただ単に想像で書いているのではなく、これが事件の真相なのではないかと思わされるほど綿密に描き込まれている。原作を読んだ時から、きっと実写映画化するのだろうなと思っていたので、映画化の報せが届いた時はとても嬉しかった。主演のキャスティングにやや違和感を覚えたものの、こんなに深い余韻に浸れる映画は久しぶりで、文句の付け所が無く満足度が高かった。