「紐解く」罪の声 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
紐解く
とても大胆な仮説に唸る。
今までもこおいうスタイルの作品は見てきた。未解決事件の仮説…3億円事件なんかが良い例だ。
だけれども、自分の記憶にそれはない。
俺も歳をとったという事なのだろうけど、自分の記憶にある未解決事件の仮説というものは、こんなにも息遣いを感じるものなのかと驚く。
最早うろ覚えではあるが、当時の報道の在り方などが断片的に頭を過ぎる。
「傍観者」という立場をこんな形で提示されるとは思いもしなかった。
語り部の手法はオーソドックスながら、2つの視点が1つに集約されていく様はとてもスリリングだ。
どんな化学変化を起こすのだろうか?
気をてらわないストリーテリングだからこそ、素直に筋だけを追えたのかもしれない。
描き出される人物像にフィクションを感じずにはおれないのだが、それでもソレは30数年前の話で、元号的には2世代も前の世界観だ。
違和感をも呑み込ませる程の時間がある。
事件の火種はそれよりも更に前に遡る。
現代に至るまで、それ相応の傷をこの国も負ってきたのだと目の当りにする。
決してお伽話ではない事実が挿入される。
かの事件の金主が政府関係者…いや、政府だと仮定して、権力のえげつなさに震える。
そこまでのお膳立てがまた用意周到。
ピントのズレてた絵の最後の一絞りがカチッと合うような爽快感さえある。
あー、なるほど。ギャンブルではなかったんだと。
その青写真は勝ち戦が前提だったのだと。
糸口の見つからない、毛糸の束のたった一つのササクレから解いていく様な感じでスリリングだった。
時間軸としては誰1人殺されはしないのだけれど、極上のサスペンスを提供してくれてた。
また、その担い手としての新聞記者って立ち位置は絶妙だ。しかも新人ではない。
理想と現実に疲れ、一線を退いた中堅記者。
彼が、記者としての原点に回帰していく様を小栗氏は好演してたように思う。
脇を固める俳優陣も当て書きかの如く、しっくりと、しっかりとした仕事をしてた。
決して派手な内容ではないが、腰を据えてじっくりと鑑賞に浸れる作品だった。