「罪の声ではない、その声が人生を掘り起こす」罪の声 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
罪の声ではない、その声が人生を掘り起こす
日本犯罪史上最大の未解決事件と聞かれて真っ先に思い浮かぶのは、三億円事件。しかし、こちらも。
グリコ森永事件。
モチーフにしたベストセラー小説の映画化。事件名も“グリコ森永事件”から“ギンザ天萬事件”に脚色。
正直言うと三億円事件ほどよく知ってる訳でもなく、メーカーの社長が誘拐されたとか、商品のお菓子に毒が混入されたとか、それくらい。
さらに言うと、原作未読はいつもの事ながら、作品自体も暫くほとんど興味無く。と言うか、グリコ森永事件モチーフの作品である事を知らず、ただの小栗旬と星野源のW主演のサスペンスってぐらいにしか知らなかった。
で、それを知ったら、メッチャ面白そうやん!
そして率直な感想は、非常に面白かった!
中身スカスカの記事を書く芸能部の記者・阿久津は、社会部へ異動。とっくに時効となった35年前の未解決事件“ギンザ天萬事件”の取材をする事に。最初は昔の事件とやる気無かったが、のめり込んでいく。
昭和の謎に挑むミステリー。
父親の後を継ぎ、昔ながらのテーラー店をひっそりと営む曽根。
ある日、父の遺品を見つける。古ぼけたテープ。そこに入っていた声は…。
天萬事件で脅迫に使われた子供の声。
記憶に無いが、自分は事件に関わったのか…? 父は犯人だったのか…?
自分の家族の秘密を調べながら、彼もまた事件の真相に迫っていく。
やはりこういうミステリー物、主人公が二人居て、それぞれのやり方で真相に近付く…というのが面白い。
原作は大長編と聞く。映画を見てれば分かる。
膨大な情報量、エピソード…。
何人もの証言者、浮かび上がる怪しい人物(キツネ目の男)、辿り着いた犯人グループ…。
学生運動などの当時の情勢、警察や裏社会の繋がり。日本を変えようと過激な行動に出てしまった若者たちと、日本社会の暗部。事件の真相は本当にこうだったのでは?…と思わせるほど。
重厚で骨太で、それでいてテンポよくエンタメ性も抜群。
TVドラマ『逃げ恥』の監督×脚本コンビで、これほどのミステリーを魅せられるとは!
小栗旬&星野源も熱演。
ミステリーとして見応えあったが、人間ドラマとしても胸打つものもあった。
よくあるっちゃあよくあるが、事件に人生を奪われた者たち。
本作の場合、知らず知らず事件に関わった、テープの声の子供たち。
曽根と、後二人。
その後の人生は明暗分かれた。これは見てて胸が痛かった。
曽根もあのテープを聞いて、どんなに苦しんだろう。
が、さらにもっともっと苦しんだ者が居た。残酷過ぎる悲劇に見舞われた者も。
犯人グループの犯行理由。金、あの頃の日本という国に一矢報いる…など己の欲。
そんなものの為に彼らの人生は奪われた。
彼らの悲しみ、苦しみを知れ。
彼らの人生を返せ。
奪われた時は取り戻せない。
が、真実を掘り起こす事は出来る。
彼らを苦しめた過去の“声”によって。
悲劇や絶望の中でも決して諦めない。ギンザの看板(=夢)に誓って。
謎から始まり、徐々に紐解かれ、
悲しみ、苦しみ、
35年を経て、真実が明かされ、
時が彼らを優しく包み込む。