「もう一回」罪の声 イナヅマゴローさんの映画レビュー(感想・評価)
もう一回
TBSのドラマ演出家のツートップ、土井監督による演出(もう一人のトップは半沢直樹の福澤氏)、脚本は今をときめく野木亜紀子氏。これは見ないわけにはいかない、と公開初日に鑑賞。
流石である。抑え目の演出が生み出すリアリティ、喫茶店のガヤや廃棄場の騒音、飛行機の音まで抜かりなく丁寧。
俳優陣の芝居は今更どうこう言うまでもなく素晴らしい。
鴨川沿いのテーラーなどロケーションの風情も最高。
と高く評価しつつ、以下あくまで個人的な感想を書いてみたい。
正直お話の細かいところまで一度の鑑賞で把握できたかと言うと自信がない。結末を知ったうえでもう一度見ないと私はこの作品を見たと言えない気がした。恥ずかしながら私には人物関係など少々難解であった。株価がどうこうという不得意分野が語られたせいもあったかもしれない。
ただ、おそらくそれにもまして、感情移入しづらい部分、それは自分が未体験の感覚が作中にあるからだろう。
まず、警察、社会に対する反抗心、革命、学生運動に燃えた当時の学生の熱い気持ちが理解できていないのだ。
最後の最後、この気持ち、想いが重要な鍵を握るのだが、そこに共感する自分の体験がない以上、どうしても感情移入できたと言い難い。
また、自分の声が犯罪に使われたことに対する罪悪感である。それはもちろんあるに決まってる。だが、この子たちは何も知らず自らの声を利用された、いわば被害者である。
この子たちに罪はない。調べればそんなことはすぐにわかる。堂々と生きていい。そこに苦悩する星野源に100%の感情移入が私には出来なかった。ましてやこの事件、死者がおらず、金銭的な物が奪われなかった事件である。誘拐された社長には同情するし、振り回された警察もお気の毒であるが。
そこからお話がスタートする以上、全てを受け入れることが私には出来なかった。(ちなみにもう一方の姉弟の運命の理不尽さには激しく同情する)
あなたの感性がおかしい、不勉強だ、理解不足、そういった批判は甘んじて受け入れます。確かにそうかもしれないです。
でも、これが偽らざる今の感想です。
私はグリコ森永事件の時子どもであった。
お菓子を欲しがる立場であった。
星野源と同じ歳の頃だ。
ある日突然スーパーのキャラメルが包装されたこと。
キツネ目の男の似顔絵が子供心に怖かったこと。
なぜ犯人が捕まらないのか不思議だったこと。
もう少し勉強して、気合い入れてもう一回みます。