あなたの名前を呼べたならのレビュー・感想・評価
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宝石箱のような映画
8年前に放送された「家政婦のミタ」というテレビドラマがあった。松嶋菜々子が怪演した主人公は、長谷川博己演じる一家の主人からもその子供たちからも「ミタさん」と呼ばれ、それなりに人格を重んじられていたと思う。家政婦は英語でhousekeeperだが、本作品の主人公ラトナは召使い、servantである。servantには奴隷という意味もあって、人格は認められない。ちなみに公務員はpublic servantである。つまり公僕だ。私を捨てて公のために尽くさねばならない。にもかかわらず自分たちを支配階級と勘違いして、国民のことを働いて税金を納めるだけの奴隷のように考えている官僚や役人が多いような気がするのは当方だけだろうか。
相手役のSIR、つまり旦那様は驚くほどの人格者である。自由平等博愛の精神をそのまま体現したような人で、流石にここまで出来た人にはお目にかかったことがない。これほどの人物が登場するのであれば、邦題のタイトルは原題「SIR」のまま「旦那様」でよかったと思う。
秋元順子が歌った演歌「愛のままで」の歌詞に「ただあなたの愛に包まれながら」という一節がある。愛されてさえいれば幸せという女心は万国共通なのだなと改めて思う。
インドはラマヌジャンという天才数学者を輩出した国であり、IT先進国なのだが、意外に不自由な国でもある。日本のインド料理店の従業員はたいていネパール人という噂がある。ネパール人はインド料理を修行して日本で店を出す自由があるが、カーストの階級が下のインド人にはビザその他の自由があまりなくて、日本で店を出すのはかなり難しいらしい。華僑やアメリカン・ドリームのような逆転の希望がないのだ。
太古の昔にはカーストによる差別に反対してゴータマが仏教を興したが、ヒンドゥの偏見を無くすことは出来ず、雨降って地固まるみたいに逆に偏見を強める結果となってしまった。人間は弱くて、仏教が求める、煩悩を超越する強くて独立した精神性という理想に耐えられない。だからイスラム教やキリスト教に走る。
カーストの意識が根強く残る農村では、生まれた瞬間に一生が終わっている。しかし都会に出れば、自由に生きられる可能性がある。旦那様の婚約者の「ここはムンバイよ、好きなように生きられる」という台詞が耳に残る。
農村の精神性が強く残ったままの主人公は、何もかも捨てて旦那様の愛を受け入れる選択がどうしてもできない。しがらみばかりが網のように心を蔽ってしまう。昔の芸者のように泣いて別れる運命なのだ。しかし女心の残り火はいつまでも消せない。その切なさが本作品の芯である。儚い恋はいつの世も麗しい。バスや列車の車窓から眺めるインドの景色も、いくつかのバリエーションのある主人公の衣装も美しく、ひとつひとつのシーンが心に残る宝石箱のような映画である。
タイトルなし
都会のムンバイで住込みで働く
農村出身の未亡人ラトナ
結婚が破棄になり憔悴しきった雇い主
この二人の関係が静かに変わっていく
.
カースト制度は廃止されたとしても
現実はイギリス以上に厳しい階級社会
ファミリーパーティで食事をサーブしても
ゲストにはメイドの姿は見えていない
そんな社会でシンデレラストーリーは
まだまだ遠い話なのだろうと思いながらも
彼女の自立への一歩を
願わずにはいられなかった
.
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未亡人はアクセサリーを着けてはいけない
妹の結婚式の写真にも写ってはいけない
田舎では厳しい縛りが残っているそうです
未亡人は一生未亡人のまま
都会に住む進歩的な人達の中でさえ
インド社会では今もそれが現実
.
大げさな描写はなく
流れるように描かれていて好感
インドでの【衣・食・住】
女性監督ならではの視点も注目
非常にシンプルで細やかなラブストーリー
歌って踊らない(踊りのシーンはあるけど)そんなに長くないインドの映画は、ものすごくシンプルなラブストーリー。結婚式直前で婚約者が浮気して破談になってしまったお金持ちの男性と、結婚4ヶ月、19歳で未亡人になってしまった住み込みメイドの静かな恋愛。
男性はアメリカで暮らしていた過去があり、メイドたる女性もきちんと人として扱う。女性は傷ついた男性をそれとなく慰める。
ふたりが本当に少しずつ、そしてぎこちなく距離を縮めていく感じがとても初々しいというか...美しい。ほんのちょっとしたことばや、仕草に感情が如実に現れる様。本当にささやかなシーンの積み重ねでできた繊細さ。
しかしふたりには厳然たる「階級差」があり、加えて女性は「未亡人」であり、決して婚家から逃れられないという宿命を背負っている。突っ走ろうとする男性を諫める彼女が切ない。夢があって、愛があって、そしてどんなに頑張っても逃れられないものがあるということ。
それでも、ラストはほんの少しの勇気で終わる。非常にささやかな終わり方だけれど、仄かな光のような希望が持てる最後だ。
近年稀に見る邦題の秀逸さも評価したい。
身分違い
日本語の題名と予告編を合わせれば、完全なネタバレになっているという驚くほど単純な映画で、眠気を誘う。
原題は「サー(旦那様)」。女中は、御曹司をそのように呼ぶ。一方、御曹司は、女中相手に「サンキュー」や「ソーリー」を連発する、ありえないほど優しい男。所得格差がありすぎて、本来、何も起きるはずがないが・・・。
インドの素晴らしい服飾産業を垣間見せながら描かれる、しっとりとした恋愛物語。カップルでの鑑賞にお勧めかも。
様々な格差
階級格差、男女格差、田舎の因習に囚われつつ生活するメイド女性と、全く別の事で幸せを感じていない傷心の男性のラブロマンス。人生の違いに理解をしつつ徐々に距離を詰めていき答えを待つ男性のナイスガイさが印象に残りました。最後の締め方も良いですね。インド単独ではなく印仏合作なだけに上映時間は短く、ローカルな場面はほどほどに、フランス映画の雰囲気もうまく混じっている感じでした。
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