劇場公開日 2019年4月26日

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「地球上に生きているということ」THE QUAKE ザ・クエイク 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0地球上に生きているということ

2019年5月14日
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鑑賞方法:映画館

怖い

知的

 大変に怖かった。とにかく怖かった。人智を超えた圧倒的な力の前に、生身の人間のなんと無力なことか。

 地球の内部でマントル対流が起きていて、マントルの上に乗っている地殻は必然的に対流に引っ張られて動き、複数の地殻の相互関係で地震が起きるというメカニズムについては聞いたり読んだりした。そしてメカニズムが分かっても個別の地震がいつどこで起きるのかは予測できないということも、あちらこちらで見聞きした。
 「天災は忘れた頃にやってくる」という寺田寅彦の言葉はあまりにも有名である。被害に遭って次の被害に備えているうちは次の天災は発生せず、被害を忘れて用心を怠っているときに限って発生することが多く、結果として被害を甚大にしてしまう。
 被害を大きくする原因には正常性バイアスもある。自分だけは大丈夫と思ってしまう心理、あるいは起きていることが大したことではないと見くびってしまう心理のことだ。災害時には悪者扱いされる正常性バイアスだが、日常生活で簡単にパニックに陥ったりしないためのブレーキの役目を果たしていると思う。例えば猫が何かに驚いて道路に飛び出して自動車に轢かれる例はよくあるが、人間では滅多に起きない。正常性バイアスは日常生活に必要な心理なのである。
 しかし災害時には逃げ遅れや判断ミスの原因となる。東日本大震災で避難先を間違えた教師たちがそのミスと見苦しい弁解を責められていたが、もし自分が彼らの立場にあったとしてら、生徒たちを正しく安全な場所に誘導できたかどうか。教師たちの行為が意図的であったなら責められて然るべきだが、正常性バイアスが働いたミスならば、必要以上に非難されるべきではない。

 さて本作品はノルウェーの首都オスロを舞台に、人々が巨大地震に遭遇する映画である。文明の象徴みたいな巨大なビルも、地震のエネルギーにはマッチ箱みたいに潰れてしまう。動物はいち早く察知して逃げ出すが、彼らの逃げる先に安全がある訳ではない。
 家族を描き人間を描いてはいるが、本作品はヒューマンドラマではない。寧ろ自然災害を前にした人間の無力さを強調し、創造と破壊を繰り返す地球の、あるいは宇宙の不条理をあぶり出す。
 恐ろしい場面の連続は、蜘蛛の糸よりも頼りない生命の糸の、あまりの細さに気づくことに由来する。死は日常的に我々の前に口を開いて待っている。今日、何を選択するか。今、何を選択するか。人が地球上で生きているということはどういうことなのか、改めて深く考えさせられる作品であった。

耶馬英彦