「本音と建前と」八芳園 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
本音と建前と
なかなかユニークな試みの映像である。映画と呼ぶにはプロットも脚本もなく、不足しているものが多すぎるので、映像と呼ぶことにした。
タイトルがほぼすべての内容を説明している。東京に住んでいる人なら大抵ご存じと思うが、八芳園は有名な結婚式場のひとつである。つまり舞台は結婚式だ。それも集合写真の場面だけである。
結婚式に出席した人たちの顔だけをひたすら映し出す。楽しげな表情、渋い表情、嘘臭い笑顔、それに無関心。シャッターまでの待ち時間は、人はそれぞれにこの結婚式に対する立場の差、思い入れの差、感情の差が読み取れる、リラックスした表情、ある意味で油断した表情を浮かべている。
しかし新郎新婦が着席し、いよいよシャッターが切られる段になると、人びとは急に自意識が高まり、自分がどのように写真に写るかを気にしはじめる。スナップ写真が映すのは人びとの自然な表情だが、ポーズ写真は、その人がどのように映りたいかと思っている、その表情を映し出す。本音があり、建前があるのだ。
写真にどういう風に映りたいかは、その人の価値観が決めることだ。しかし思惑通りに映るとは限らない。顔にはその人の生きてきた様々なものが刻まれているからだ。改めて、人の顔は人生だと、そう思わせる作品であった。なかなかいい。
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