劇場公開日 2019年11月8日

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「【母の決死の行為で自由になり、何にでもなれる筈だった三兄妹と15年ぶりに戻ってきた母親との関係性の緩やかな変容を描く】」ひとよ NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【母の決死の行為で自由になり、何にでもなれる筈だった三兄妹と15年ぶりに戻ってきた母親との関係性の緩やかな変容を描く】

2019年11月8日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

幸せ

 序盤の展開を観て、近年多発する許しがたい親の子供虐待の問題とは切り離して今作を鑑賞する姿勢に切り替える。

 小さな地方タクシー会社を営む稲村家が舞台。

 自分たちを守った筈だった15年ぶりに戻ってきた母こはる(田中裕子)に対する三兄妹の態度の違い。特に長男大樹(鈴木亮平)の戸惑い、次男雄二(佐藤健)の冷めた態度と、三女園子(松岡茉優)の嬉しそうな姿のギャップ。

 久しぶりに再会した家族4人の関係はギクシャクしている。

 ・忙しい筈の風俗記者になった次男がキャリーバッグを引いて帰郷した姿から、何かあるなと思ってしまう。

 ・長男は結婚してタクシー会社に勤務しているが、結婚生活は上手くいっていないようだ。

 ・三女は母の行為が遠因で、夢だった美容師になれなかったらしい。

 そして、真面目な新人中年タクシー運転手(佐々木蔵之介)に近寄る怪しげな男(大悟:千鳥)。

 夜中の激しいタクシーカーチェイスの果て、(雄二の見事なドロップキック!)ギクシャクした家族関係が緩やかに関係性を取り戻す。

 4人家族を演じた俳優さん達は素晴らしく(松岡さん特に良い)物語にぐいっと引き込まれるが、彼らを取り巻くタクシー会社経営を引き継いだ人情味ある涙もろい男(音尾琢真)やタクシー会社の人々(特に認知症の母を持つ筒井真理子が良い)が4人家族を優しく見守る姿も良い。

脚本がやや粗く感じたのは、同名の舞台を映像化した際に物語の一部を端折ったのかな、盛り込めなかったのかな。(長男夫婦の関係の描き方とか、筒井真理子さんの母親の認知症で徘徊するシーンがセリフのみで描かれ本筋との関係が良く分からなかった部分など)

 けれど、複雑な過去を持つ家族が徐々に関係性を再生していく全体像と、こはる(田中裕子)と雄二(佐藤健)が激しい葛藤を心に秘めつつ静かに対峙するあのシーンは沁みた。

NOBU