「憎しみの対立の果て」ホテル・ムンバイ お水汲み当番さんの映画レビュー(感想・評価)
憎しみの対立の果て
2001年9月のアメリカ同時テロなら、何が起きたか世界中の人が知っているのに、2008年11月のインド・ムンバイの同時テロのことを、私はすっかり忘れていました。
同時に10カ所がイスラム系のテロリスト集団に襲われ、数百人の死者を出した凶悪犯罪のことを、映画を観てから調べて、これは大変な事件だったのだなと感じています。
この映画は、顧客を守ろうと身を張って頑張り抜いた「タージマハル・ホテル・ムンバイ」の従業員たちを最初から最後まで描いた2時間の作品です。
作り物でない証拠に、せっかく警察の第一陣が2階の警備員室に到達して、敵の動きを把握できる場所を占拠したのに、その有利さをほとんど活用もできずに殺されていってしまったり。
そこに残った主人公も、その有利さを何一つ活用できずに震えていたり。
こんな間抜けな話、作り物の話としては成立するはずがないのですが、これこそが史実なのかも知れません。
とはいえ、映画の観客としては、割り切れない(不完全燃焼)こと、おびただしく、むしろ「作り物だ」と観客が最初から知っている「パニック映画」だったなら、それはもう最高の作品だったろうと思います。
来年、大きなイベントが開催されるわが国において、テロが起きない保証はなく、予防接種的な効果を含め、観ておく価値が十二分にある映画でした。
宗教に名を借りて憎悪をかき立て、自分の手は汚さずに純真な「信者たち」に犯罪を犯させる。
このような者を、なぜ天は罰されないのでしょうか。
神など、存在しない、なによりの証拠なのかも知れません。
もっとも、高度に政治的な作為を感じる映画でもあります。
このインド映画が出てきた時というのは、インド・カシミール州のイスラム系住民の自治権が剥奪されたのとほぼ同時だったのですから。