「地味だが良い作画。」鹿の王 ユナと約束の旅 alphaさんの映画レビュー(感想・評価)
地味だが良い作画。
原作は上橋菜穂子。製作はIGということで、いつものタッグ。監督はジブリでお馴染み、安藤氏と宮地氏。
ちなみに自分は原作未読。だが上橋氏なので、悪くないはず!(精霊の守り人シリーズは好き)
作品を通して良くも悪くも全体的に安定してる。
残念ながら傑作にはなれなかったが、真摯に作られた佳作かと。
ストーリーは対策不明の疫病の免疫を獲得した主人公ヴァンが孤児のユナと一緒に、ゴタゴタに巻き込まれながら、どうにかこうにか切り抜けるファンタジー。
アニメーションとしては、男女の入れ替わりもないし、人造人間に乗って槍で世界を書き換えたり、鬼を呼吸でやっつけたりもせず、おじさんと血のつながらない娘の出会いと別れを描くという渋い内容。
この渋さは、ProductionI.G.ぽくて個人的には好き。
前半は、ヴァンとユナの出会いと村での生活が丁寧に描かれていて、派手では無いが、心地よかった。
ただ、中盤以降、ファンタジー要素と現実的な疫病の解明というミステリー要素とがケンカして、理解が出来なくなった。
どこまでがファンタジーの設定で、何処からが現実的な解釈をすべきなのか分かりづらい。
この辺りは原作でどうなっているのか確認したい。
演出は常に一定レベルで安定しているが、テンポが単調で印象的なシーンが少ない。もう少し効果的な手法や絵作りがあっても良かった。この映画を傑作にさせなかったのは、この辺りの悪影響。音楽も同じく、それっぽいし悪くは無いが記憶に残らない。これらが致命的。
作画絵作りに関しては、丁寧に描かれていて好き。特に日常での微妙な動きは流石。作監、原画のメンツを見ればさもありなん、である。
ただ、決して派手な動きではないし、ビビッドな色使いでもないので、万人受けするようなものではない。
個人的にはフェチズムにドンピシャな作画が多く、線を見ているだけで惚れ惚れ。(ほとんどの人には理解されないと思う。)
この作品には絶対的な比較対照がある。それは、もののけ姫。安藤氏が作監を務め、鹿や山犬などモチーフも重なる部分が多い。また、演出においても、疫病を振り撒く狼が現れるシーンのエフェクトなどは、もののけ姫でデイダラボッチが命を奪う様と酷似している。作っている人間が共通しているのだから当然である。
しかし、もののけ姫の宮崎駿の演出や久石譲の美しい過ぎる音楽と比較してしまうと、どうしても見劣りしてしまう。それは彼らの才能が圧倒的だったということだろう。こうした比較は、この作品の避けようのない宿命である。
ただ、そうだとしても、全体的に真摯に向き合って作られた映画だと思う。なによりも、今の安藤氏の技術で描かれた鹿(もはやヤックルと思って見てた)の駆ける様が見れたのが個人的には嬉しい。