「若き少年の理想と生きるためのオッサンの苦悩」空の青さを知る人よ じゅんちさんの映画レビュー(感想・評価)
若き少年の理想と生きるためのオッサンの苦悩
もっと若い人が観る映画のようにも思うけれど、自分のようなおっさんの心に響く作品だった。
男なので、やはり主人公のひとりであるシンノに感情移入した。
「ガキの頃の俺が今の俺を見たら笑うだろうか」
という思いは、多くの大人の男が持っていると思う。
青くさくも抱いていた夢、理想、将来。
そのとおりの人生が歩めている大人はほとんどいないだろう。
多くが、生きていくために、一番したかったわけでもない仕事をして、あの頃一番好きだった彼女ともとっくに離れ、シンノスケの言葉を借りれば「俺だってそれなりに頑張ってる」人生を必死に生きてる。
だからシンノスケの気持ちがわかる。
そして、多くの人が、思い出の中にシンノを持ってる。
将来への夢、理想、こんな大人になりたいという希望。青臭くても熱い想いを、個人差あれど持っていたはずのシンノの部分にだから共感する。
「あんたみたいになってもいいって思わせてくれ」と将来の自分に向かって叫ぶ。
その叫びは、自分の中にもある自分の言葉だからシンノスケにも刺さるし、我々おっさん視聴者にも刺さるのだろう。
夢をかなえていなくてもできることはあるだろう?と若いシンノは問いかける。
それをちゃんと失ってなかったから、おじさんシンノスケは走り出せた。大好きな人を救うために。
13年前、シンノは東京へ行きたくて、東京なんかに行きたくなかった。
東京へ行きたかったシンノは思い出を、アカネを捨てて街を出た。だからギターケースにテープを巻いた。
東京へ行きたくなかった、アカネへの想いを捨て切れなかったシンノはお堂の中で眠り続けた。
シンノスケが地元に戻るとき、
置いてきた思い出と見つめ合わずには戻れなかった。
だから彼はギターケースのテープを解いたし、故郷に、そしてお堂に向かったのだろう。
二人が対立を終えてわかりあい、若きシンノが消えたとき、寂しさよりも爽やかさが残ったのは、シンノが未来を受け入れて、シンノスケが忘れてきたものを取り返せたからだと思う。
井の中の蛙、大海を知らず。それど空の青さを知る
井の中の蛙は、みんな。シンノもアオイもアカネも。
アカネは空の青さを知っていた。
もしくは、東京には行けないとなったときに、ここで生きていくんだと決めた時に空の青さを知ったかもしれない。
シンノは、空の青さ=アカネへの想い も、大海=東京で叶えたい夢も両方持っていた。
その二人…いや三人に触れたことでアオイははじめて空の青さを知る。
そういう映画だった。