「あらゆる要素が巧みに構築されている傑作」空の青さを知る人よ ひなさんの映画レビュー(感想・評価)
あらゆる要素が巧みに構築されている傑作
あの花、ここさけに続く三部作完結編。
あの花とは媒体とフォーマットが違うので単純に比較することはできないものの、三部作の最高傑作でした。
本作はジョブナイルであり、失恋物でもあります。そして家族を描いた作品でもあります。感覚としてジョブナイル:失恋:家族=5:2:4でした。
ジョブナイル的な登場人物の心理的成長は前二作でも描かれてきましたが、本作では家族の要素と失恋という要素が加わったことになります。
川村元気氏がプロデューサーとして名を連ねていることもあり、新海誠監督作品が脳を散らつきました。しかし、新海誠監督の描く失恋には停滞からの解放以外の救いの要素はありません。一方で本作は姉妹という関係によって救いの要素があるのが印象的でした。
されど、空の青さを知る。
幾度となく出てくるこのワードは「あかね」が自分の夢を諦めて得た幸せであり、逃げるように東京に出ようとしていた「あおい」が描いていた幸せでもあります。そして「しんの」にとっては「あかね」といることであったはずです。
3人は井の中の蛙だったのかもしれないが、空の青さという小さな幸せを確かに得る。フィクションのハッピーエンドではなく、リアルなハッピーエンドであったことが、エンディングのラストのドレス姿の姉妹の姿から見て取れました。
失恋でありながらハッピーエンドである点に加えて、本作で印象的だったのは、舞台装置・人物関係などの要素の巧みさです。
「慎之介」と「しんの」が互いに思っていること。単純な成功/失敗と言い表せない関係性。
「しんの」を閉じ込めている物理的な壁と「あおい」が葛藤し踏み出せない心理的な壁。
「慎之介」が大海に出る為に置いて行ったギター。
それらを全て踏み出すことによる変化として描かれた、空を飛ぶシーンの直前の御堂のシーンは秀逸の一言でした。
個人的にはどれも刺さるテーマであり、中盤以降涙が止まりませんでした。一方で、みごとな調和があるものの尖っているという感覚がなく、私の中の何かの一番にはならなかったという感覚があります。
今こうして感じている感覚と実際に受けた衝動の差が、シンプルに見せるだけの巧みさを感じます。何回か見ることによって、また新しい発見がありそうです。