「実際の事件からヒントを得て、別物の恋愛映画に変わった不完全な作品」ベル・カント とらわれのアリア Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
実際の事件からヒントを得て、別物の恋愛映画に変わった不完全な作品
1996年ペルーの首都リマで起こった、4ヵ月にも及ぶ日本大使公邸占拠事件から発想された原作の映画化で、ペルーの国名は伏せられ副大統領邸のコンサートパーティーが舞台となる。但し日系人大統領はそのままで、当時のジャパンマネーに頼る南米の貧しさが背景にある。貧困と差別からくる政治不信の打破を目論むテロリストの無計画さが、膠着状態を長引かせて、そこに生まれる奇妙な人間関係が新たなドラマを生んでいる。しかし、日本人実業家ホソカワがディーバと敬愛するソプラノ歌手ロクサーヌ・コスーの世界的名歌手の設定に無理があり、一夜限りの個人的なコンサートの為にその場に居合わせるのが不自然。また人質解放で子供と女性は最優先されるし、まして彼女はアメリカ人だけに国際問題として米国を刺激してしまう。ホソカワとの恋愛を描きたい作意が明らかで、それが通訳ワタナベとテロリストの少女カルメンとの恋とダブるのも工夫が足りない。折角の日本人俳優出演が勿体ないし、特に加瀬亮は実力の半分も出していないであろう。最後の特殊部隊突入に込められた人道主義からの批判的描写も理解はするが、敵味方入り乱れ切迫した状況では仕方ないのではないだろうか。人質監禁を交渉の道具にするリスクは、自滅に近い。
主演のジュリアン・ムーアは貫禄はあるが、吹き替えの演技が良くない。交渉人役のセバスチャン・コッホとラテンアメリカ人のテロリストを演じた俳優はいい味が出ている。それに、クリストファー・ランバートを久し振りに観た。さすがにおじさんになりました。
現実的な社会問題に深入りすることなく、男女の恋愛ものの凡庸さに終わった不完全な作品。