「不快感とスタイリッシュの同居」CLIMAX クライマックス いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
不快感とスタイリッシュの同居
狂気の一夜を繰広げる阿鼻叫喚の地獄絵図を流行の先端なダンスを繰広げながら、人間の裏に潜む悪行を余すところ無く曝け出すホラー映画である。いわゆる“お化け映画”や驚かすような恐怖映画ではないが、鑑賞後の気持ち悪さや酔いは、今まで鑑賞した映画でこれ程体験したことはない。酒で酔っ払った集団を見て眉をしかめるなんてレベルではなく、“ドラッグ”というものの効能をこれでもかと追体験できる作りである。とはいえ、登場人物目線での疑似体験的アングルや視覚効果という手法ではなく、あくまでも第三者的に俯瞰した絵作りではあるが、映像が上下逆になり字幕も同様に上に逆に走るというような、奇抜な外連味で演出はされている。誰がサングリアにLSDを混ぜたかなんていうサスペンス的要素が前半には展開されるのだが、どんどんドラッグの幻覚作用により、快感と苦痛が交互に押し寄せてくる登場人物達が、それまでの内に秘めていた葛藤や他者への攻撃性を手加減無くぶち込む様は、人間の理性なんてものは信じられないと、暗澹とした心地に陥ってしまう位だ。子供を連れてくる母親や、LGBT、妊娠等々、無軌道を極めた人間達への自らの罰なのかもしれないと、これは“デヴィルマン”にも通づる解釈なのかも。
沢山の登場人物、しかも外国人達なので、顔と名前が一致せず、結局整理できずにラストの種明かしになってしまったので、ネットで調べて始めて犯人が判明した位、サスペンス要素はどうでもよくなる。それぞれの人物の体や脳に起こっている事は分らないが、その異様な行動をこれ程洪水のように浴びせられると、観ているスクリーンの外も多大なる影響を及ぼすということをはっきり実感できた唯一無二の実験作であろう。ダンサー達の研ぎ澄まされた精悍な肉体が却ってドラッグの影響により、中毒患者の枯れ木のようなギスギスしさを醸し出している演出も凄みを感じる。サイコホラーとしての最新版として、今作を高く評価したい。