劇場公開日 2019年11月8日

  • 予告編を見る

「オボァガードの必死さに涙する」残された者 北の極地 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5オボァガードの必死さに涙する

2025年8月28日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

極北で遭難している男のサバイバルものではあるが、他の似たような作品と何が違うかというと、この過酷な状況を生き残る術はすでに物語の始まりから獲得していることにある。

主人公オボァガードは、太陽が沈まない地域故に、腕時計のアラームで毎日の行動を管理している。
朝起きて、共にセスナに乗っていて不時着の際に亡くなったのだろう仲間を埋葬した地に積んだ石を綺麗にし、SOSの地上文字の雪を掻き、食糧の魚を捕り、通信機に手動で電源を入れ、基地があるであろう方角の山を眺める。そして眠りにつく。

毎日のルーチンは決まっており、シロクマに襲われるなどの不測の事態が起きないかぎり、彼は救助がくるまで生き延びることが出来るだろう。

つまりサバイバルものでありながら、生き残るために戦い、工夫し、努力するような作品ではないのだ。

しかしオボァガードを救助に来たヘリコプターが墜落していまい、乗っていた女性隊員が重症をおうことでドラマが動き出す。

瀕死の女性を救うためには、自分一人ならば生き残れる安全を捨て、更に過酷な基地を目指す行動にでなければならない。

人は自分のためよりも誰かのための方が力が出るものだ。
単独の時よりも怪我人を伴うため確実に困難であるにもかかわらず、過去に来て挫折したであろう旗の位置を越えていく。

極北が舞台でなくとも描けるようなシンプルなヒューマニズムの内容で、ありきたり過ぎて退屈な内容ともいえるわけだが、非常に面白く観られるのはマッツ・ミケルセンの演技と、作品内のオボァガードの必死さや、細かい機微にある。

魚以外の食糧にかぶりつく、大きな魚が釣れて喜ぶ、人の温もりに触れ生を実感する、温かい食べ物に安堵の息をする。
常に冷静な男が僅かにみせる感情に目が釘付けになる。

そして何より、女性隊員に泣きながら謝る場面は涙なくしてみられない。
オボァガードはここまで必死に頑張ってきた。すでに限界だって越えているだろう。一度は女性隊員を見捨てた彼を誰も責められないと思う。

怪我をし体力も少なく、少しでも身軽にするために生きるための道具の多くを捨てた。遠くにヘリコプターの姿を見て合図のために防寒のジャケットも失った。
気付いてもらえず、倒れ込むオボァガード。それでも意識を失いながらまだ大丈夫と言う姿に、もう無理だ、限界だと絶望を感じた時、希望のヘリコプターが現れ、長く続いた私の緊張もやっととけるのだ。

先にも書いたが、シンプルな内容を丁寧に力強く伝える脚本とマッツ・ミケルセンの演技がとにかく素晴らしい。
言葉ではなく映像で伝える、映画のあり方の手本みたいな作品だった。

つとみ