「文通の高揚感」ガーンジー島の読書会の秘密 shintaroniさんの映画レビュー(感想・評価)
文通の高揚感
良い作品だ。
作家が、文通を通じて知ったある島の読者会。その読書会の名前の面白さから、興味を抱き訪れた島。しかし、そこで出会った人々が、口を開かない秘密は、戦争で、夫や娘、親友や恋人、それぞれ大切な人を失った複雑な喪失感と残ったもの達が、今なお苦しみ、そして互いに救い合う絆に固く閉ざされていた。そんな人々の魂を開放する唯一の自由は島の読者会だった。
よそ者に過ぎないが、何かに突き動かされる作家は、助けになりたい気持ちで、人々の因果関係を丁寧に向き合い解き明かす。しかし、その結果、人々の最後の望みである女性の悲劇の報せを自らが報告してしまう事になり、何事も救えなかった存在として島を去る。塞ぎ込む毎日を過ごすが、マネジャーのシドニーに促されてその事を原稿に書き上げた瞬間、やはり戦争で両親を失い、本を読む事に心の安心と自由を求めて逃げ込んだ自分が、その人々との絆の中に、まるでジグソーパズルのピースが、見事にハマるかのように、運命の自分の居場所がある事に気付く話だ。
印象的なのは、「文通の力」。想いが綴られた手紙で、伝え合う時に覚える高揚感が、懐かしく描かれている。
さらに、原稿に向かい想いを綴るタイプライターの音が、迫力のある音で連打され、気持ちの強さが伝わってくる。書き終えた時に、改行の時に鳴るあの音が「チン!」と心地良く、スピード感とともに高揚感が伝わってくる。
最後に、登場人物達が、優しく上手に描かれて、じわじわ愛着が湧いてくる。
物語が、婚約という「制約」の上に進み、
でも、心の声である「自由意志」に従う事で、
解き放たれる高揚感の表現も一役買っている。
同じ波止場の2つのプロポーズにその対比が観れる。それを支えるシドニーの「存在」を隠し味に使うところまでよく出来ている。
「高価で、大きく硬そうな婚約指輪」にしたのは、抗うことが難しいものに立ち向かう様を表現したかったのかもしれない。言葉が、自由意識の象徴であり、その言葉が行き着くべきところへ誘ってくれる様が、テーマとしてよく描かれている。