「美しい映像、人、言葉。」ガーンジー島の読書会の秘密 はてんこさんの映画レビュー(感想・評価)
美しい映像、人、言葉。
英仏合同で作り上げられた今作。
フランス映画らしい極端に美しいロケーションや色調の中に、英国然とした衣装や街並が混ざり合って、スクリーン上には柔和かつ優美な空間が演出されていた。それだけに、ナチスドイツのあまりに無粋なこと。
役者の演技や台詞だけに頼らない映像表現は、きっと見た人全員が感じ取ることができたと思う。
主演にキャストされたのはシンデレラで一躍脚光を浴びたリリー・ジェームズ。彼女の演じる純粋で芯の強い女性には言葉にし難い魅力がある(同性には嫌われがちという悲しさ)。
今作の主人公ジュリエット・アシュトンもまさにそんな女性で、自分の美しい容姿をどこか理解しつつも、己の信念の為に泥まみれで畜産に携わる素朴さも、夜中に宿を飛び出す逞しさも備えている。
そんな彼女の周りには、いい男が多い多い。笑
ジュリエットを一途に想い、1人で旅立つ彼女を、惜しみながらも快く送り出す"お金持ち"←(重要)のマーク。
仕事のパートナーで良き理解者。長年の友として男女の垣根を超えた絆を共有するシドニー。
己の感情をずっと抱えたまま、ただ報われぬ愛情と責任を街に、子に、友に注ぎ続けるドーシー。
物語の進行上、原作小説の内容を盛り込めなかった部分もかなり多いと思うが、恋愛に関して言えばマークが不憫すぎる印象を受けた。
「もっと早く連れ帰るべきだったか?そもそも島に行かせるべきじゃなかった?」
パーティ中の描写などからも、どうしたって二人はうまくいかなかったろうなと思いつつ、ジュリエットを想い続けたマークに救いがなさすぎるし、映画の中で、彼はそんなに悪い奴じゃない。(よね?)
ドーシー役のミキール・ハースマンも素晴らしい演技を見せてくれた。
内に抱える純真な気持ちをなかなか表に出せない不器用な男を演じるのが非常にうまい。理性的な自分と感情的な自分とがせめぎ合う、表情であったり所作であったり。彼が演じるキャラクターの感情の中へ、たとえセリフが無くても、あっという間に没入してしまう。
物語自体は、いわゆる"許されざる恋"の王道で、
まず、なにがしかの共通点がある男女が出会い、惹かれ合う。
→だがその間には許されざる障害が。
→助言や手助けをしてくれる存在と共に主人公が精神的に成長
→障害を少しづつ取り除いて愛が身を結ぶ。
ポスターの謳い文句は『人生を輝かせる至高のミステリー』だったが、ラブロマンスを観に行くと思って臨んだ方がギャップは少ないのかな、と感じた。
最後に小説を原作とする映画についても少しだけ。
いわゆる「話し言葉」と「書き言葉」の違いから、セリフが妙に説明的だったり、言い回しに少し違和感があったりということが多々あるのだが、主題に文通という要素がある今作では、そこをうまく誤魔化していたなという印象を受けた。
けれど、それをするあまりキャラクターの感情が、よく言えば分かりやすく。悪く言えば単調に見えるシーンも多かった。
エリザベスの事を語る時、どのキャラも割と淡々とした口調で、朗読会の時の口調とさして変わらないように見えたのが一番そう感じた部分だ。
逆に小説原作だからこそ輝いたやりとりもある。
エリザベス、ドーシー、ドイツの兵隊(名前忘れた)が初めて3人揃って出会った時。
「安心して。彼は友達よ」
と、どっちに言ったのか。エリザベスはそう言った。
というようなシーンだ。
このたった一幕で3人の微妙な関係性を素晴らしく表現していたし、ストーリーテラーとしては、あのシーンのエリザベスの第一声はかなり気を遣うはずで、それを完璧にこなせたのは文章のプロたる小説家が作った台詞が故ではないのかな、と、思い返す。
映像も、人物も、言葉も
総じて美しいと感じる、デート向きというか、人を不幸にしない映画だった。