劇場公開日 2019年7月5日

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「60年代のアメリカと、最後の写真」ワイルドライフ ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.560年代のアメリカと、最後の写真

2019年7月6日
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アメリカの60年代は、公民権運動や女性解放運動が盛んになって、世の中が大きく変わろうしていた時代だ。
そんな時代のうねりのなか、アメリカの小さな家族の崩壊を通じて、アメリカの価値観が変わる様を比喩的に描いた物語だ。

ジェリーが鎮火作業に身を投じる山火事は、変化しつつある時代の不穏な空気をなぞらえたのだろう。
また、ジャネットが山火事に嫌悪感を示しながらも、その後不倫をしてしまうが、自立して生きて行く道を模索し始めたことも女性解放運動に身を投じるようで同様だ。
今のアメリカは、逆に内向きに不穏な空気が広がりつつあり、この映画が作られるきっかけにもなったのだろうか。
映画のタイトルも、それを表しているようにも感じる。
時代は振り子のように振れるのかもしれない。

ストーリーは、どこにでもいそうなアメリカの小さな家族が、そうした時代の大きな変化の中で、少しずつ崩壊していく様を描いている。
そして、これはアメリカの、それまでの中心的な構成要素であった白人の家族、つまり、従来のアメリカの価値観が徐々に崩壊していく様を象徴的に表しているように思う。

秀逸なのは、ジョーの視点だ。
大人の身勝手な理由や、立ち振る舞い、ルールを独りよがりで解釈したり、思い付きで行動するところなど、翻弄されるのは、実は、特定の価値観から離れられず、変わることの出来ない人達だということを上手く観察するような目で見つめている。
時代は違えど、或いは、時代が変化しようがしまいが、似たような人(大人)は、洋の東西を問わず、本当にたくさんいて、時代の変化に対して、人には何か変わらない滑稽とも思える本質があるような気もして、皮肉たっぷりのようにも感じる。

ジョーが最後に撮った写真の意味は何なのだろうか。
各々が自らの生きる道を見つけたという、人生の岐路の意味で撮ったのだろうか。
また、家族として再生するという期待があったのだろうか。
三人はどんな表情をしたのだろうか。

観る側の想像力をかきたてるが、やはり、崩れ行く価値観の中で、別々の道を歩むことを示唆しているように感じる。
そして、表情は案外晴れ晴れしていたのではないか。

また、言えることは、三人とも力強く生きて行くだろうということだ。
それが、これまでのアメリカの歴史だからだ。

追記: キャリー・マリガンと、ジェイク・ギンレイホールは、ホントにさすが!映画を重くしすぎず、しかし、深みを持たせてるように思う

ワンコ