ワイルドライフのレビュー・感想・評価
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地味だが心にしみる佳作
ポール・ダノ、初監督作ながら演出の腕は確かだ。小説が原作だが、脚本を担当したのはダノの私生活でのパートナーでもあるゾーイ・カザン。彼女とダノと言えば、共演した「ルビー・スパークス」を思い出すが、やはりゾーイが脚本を書いた同作の主人公もナイーヴな青年で、こちら「ワイルドライフ」のジョー少年とも重なる。ダノもゾーイも好きなんだろうなあ、こういうキャラクター。
キャリー・マリガンとジェイク・ギレンホールの演技は悪くないが、新味に乏しい役柄だ。ジョー役のエド・オクセンボールドは、シャマランの「ヴィジット」ではお姉ちゃん役の子に押され気味だったけれど、今作では実質的な主人公と言ってもよいほど存在感があるし、ストーリーも彼の目線で語られる。気が滅入る要素が多いが、キービジュアルにもなっている家族写真のシーンがささやかな希望を残してくれる。
太古から続く変化の一瞬と変わらぬもの
1960年代、まだまだ男は男らしく、女は女らしくという時代だ。
父ジェリーが男らしく家庭を守ることは己のプライドを守ることと同じだ。
失敗続きでどん底になりそうな時、山火事を消しにいく仕事は最後の希望に見えたに違いない。
一方、母ジャネットは、失敗続きのジェリーにずっとついてきていたのは、女は誰かに依存しないと生きていけない時代だったからだ。
家族がどん底になりそうな時、よりによってジェリーは山火事を消しにいくという。それを受けてせめて自分と息子のジョーだけでもと、新たな依存先を探すことになる。
ジャネットにしてみれば、薄給で命の危険もある山火事の仕事に着くジェリーは頭がおかしくなった(タイトルにもなっているワイルドライフ)と思っただろう。
ジェリーにしてみれば、薄給とはいえ仕事に行っている間に他に男を作るなんて頭がおかしくなった(やっぱりワイルドライフ)と思っただろう。
現代でも通じる単純な男女の考え方のズレだ。
ある程度交際などを経験していれば、男ってよくわからない、女ってよくわからない、という感覚はあると思う。
私は男なので山火事を消しに行く、愚かに見えるかもしれない行為になんとなく理解を示してしまうし、私には理解しにくいが、女性ならば、アホな男に見切りをつけて生き残る道を模索するジャネットを理解できるのかもしれない。
そんな両親を主人公のジョーが見つめる物語。
60年代の男らしさ女らしさから少しだけ脱皮するように、父に薦められているフットボールを辞め写真店で働き始める。
ジェリーがフットボールを薦めるのは男らしいからだろうし、それを向いていないからと、ジェリーが考えるような男らしさにとらわれず辞められることに新たな世代を感じさせる。
それは現代まで続く小さな変化一つだと言えるだろう。世代を越えるごとにバージョンアップされていく地続き感が良い。
一方で、父の愚かさを見せるために山火事が見えるところまでジャネットはジョーを連れ出したが、そこでジョーは父に対して共感を示す。
男らしさや女らしさとは違う、感覚の違いはあるというバランスの取り方も良かった。
14歳というのは、両親の間で起こっていることが理解できる程度に大人で、2人の好きにしたらいいと思えるほど大人ではない微妙な年齢だ。
喧嘩しないで、離婚しないでと泣きわめけるほど子どもでもなく、素直に受け入れられるほど大人でもない。
それがラストの三人並んでの写真撮影に表れていたように感じた。
ジョーにとって二人は離婚してしまっても父と母に変わりはないのだから、子どもっぽい望みを大人の手段で叶えるたと言える。
物語としてはバッドエンドかもしれないが、ハッピーエンドだったと思えるほどに素敵なシーンだったと思う。
新世代のジョーが旧世代の両親との変わらぬ一瞬をカメラにおさめるのは、作品全体を捉えた一瞬と同じようにも思える。
ポールダノ監督
昨日観た、ヴィジットに出演していた子役のエドオクセンホールド君の演技がとても良くて、他のを探していたら、こちらがヒット。
監督があのポールダノさんじゃありませんか❗
ジェイク・ギレンホールさんも父親役。
もう、これは期待大です。
今年、コヴェナントを観に行った時、
プチギレンホール祭りしたけど、
こちらはSFでもなければ、ミステリーでもないのでチェックもしていなかったです。
ヴィジットから3年経ち、オクセンホールド君も声変わりをし、少年になっていました。
良い演技でした。
ちょっとプライドが高い、子供思いの父親、
毒親ではないけれど、少し精神がか弱い母親。
そんな親が好きだけど、どうしたら良いのかわからない少年を見事に演じきりました。
この家族の将来に幸あれ…
14歳のジョーの視点、家族というものを考えさせられる。
母ジャネットも、父ジェリーも、息子であるジョーに全てを語らない。その親としての表情、苛立ち、葛藤、男のプライド、女の性(さが)をジェイク・ギレンホールとキャリー・マリガンが素晴らしい演技で魅せてくれる。
物静かなジョー演じるエド・オクセンボールドがほぼ主演。少ない台詞の中、不思議な佇まいで思春期の少年を好演。絶妙な配役。両親の気持ちや立場を理解しながら、自らの気持ちを優しく伝えていく。何て良い子だ(涙)。
ジェリーの説明の無い選択も疑問だらけ、ジャネットの母としての行動も理解出来ず。だが、これは全てジョーの視点での話で、各々にその行動の理由と原因があるのだが、語らない。そこには親子の信頼があるからこそ、今まで注いできた愛情があるからこそで、その信頼関係に甘えている親の姿というのも自分に当てはめて考えさせられる。
独特なカメラワーク、心地良い間、何処か胸に染み入る演出。キャリー・マリガンの寂しげな笑顔、ジェイク・ギレンホールの思い詰めた表情、修復しきれない夫婦関係。色々な結末があり得る中で、ハッピーエンドを期待していただけに、選ばれてしまった結末が寂しい。だが、不思議と''ストン''と胸の中に落ちるラスト。万人受けはしないが、心に残る良作。
いつもと違うキャリー・マリガン。とてもよい
丁寧に観るべき良作
予備知識を持たず観ましたが、静かに満足しました。鑑賞後にはデリケー...
いいたいことがあるからつくる
リトルミスサンシャインのポールダノをおぼえている。プリズナーズもオクジャもスイスアーミーもけっこう鮮明におぼえている。
時間が短くても印象的な俳優だと思う。
アメリカだと、印象的な俳優が、監督もこなしてしまったりして、圧倒される。
対抗しなきゃならないわけじゃないが、俳優が監督に転身?日本じゃきいたことがない。人はそうそう多芸じゃない。
もっともハリウッドには(いまおもいつくかぎりだが)ウォーレンベイティ、ポールニューマン、レッドフォード、ショーンペン、ケビンコスナー、イーストウッド、ベンアフレック・・・俳優が、すぐれた映画監督になっている例は、いっぱいある。
近年の俳優→監督で感心したのはジョエルエドガートン監督のBoy Erasedと、ポールダノ監督のこれだった。どちらも2018年である。
エドガートンのBoy Erasedやこの映画を見てかんじるのは、いいたいこと(映画にしたいこと)があって、映画をつくっている──という、しごくもっともな道理である。
みょうな言い方──にきこえるかもしれないが、エドガートンもダノも、これを言いたくて映画をつくった──わけである。
プロダクションから「ちょっと監督業やってみませんか、箔も付きますし」とか、誘われたわけじゃない。
本作もBoy Erasedも、コスナーのDances with Wolvesも、ショーンペンのIndian Runnerも、ずーっと昔から、その草案をじぶんのなかで温め、俳優になり、知名度をえて、業界を知り、資金もたまって、人材も集められた──だからつくった──わけである。
こけおどし&キャリアの箔付けだけで、じっさい言いたいことなんかなんにもない日本の「鬼才」とはちがう。
まったく当たり前のことだが、創作の動機には「いいたいこと」がなければならない。
その「言いたいこと」は、昨日思いついたやつ──じゃなく、昔っから、それこそ物心ついたときから「いつかわたしはこれを映画にしてやるぞ」という信念としてたずさえてきたもの──が望ましいのはとうぜんだ。
たとえば韓国映画のはちどりにはそんな長い長い想いがあった。
ずーっと考えていたこと。
なん十ねんものあいだ、お金や仲間や機材や名声や技量がなくて、つくれなかった「いいたいこと」。
まったく当たり前のことだが、その「言いたいこと」の存在こそ「作家」になる動機である。
日本にも映画監督(あるいはなんらかの作家)になりたがっているひとが多数いるだろうが、彼/彼女は「いいたいこと」をもっているだろうか?なんてね。
海外映画をほめるのに日本をdisる、いつもながらの牽強付会へ陥ってしまったので、以下は割愛するが、エドガートンのBoy ErasedやポールダノのWildlifeを見て感じたのは、まさにそこである。
また、優れた作家の「いいたいこと」には普遍がある。
このWlidlifeも、ゆたかな普遍性があった。
(普遍普遍と、気軽に普遍という言葉をつかっているので、じぶんがどういう意味で普遍を使っているのか、いちおうせつめいしておきたいが、
普遍とは、じぶんには起こりえないことであっても、そういうことはあってもおかしくないと思える現象をさしている。
さらに、じぶんとは違うひとであっても、そのひとの気持ちが、わからないわけではない人もさしている。
また、それらの現象や人に、じぶんの経験をつうじて、似たものや近親性をかんじることを、そうじて普遍と言っている。)
まるでトレイシーチャップマンのFast Carのように、貧しさと隣り合わせに生きている60年代の女性にとって、生活を経済的によくするために、身体をつかうことは、現代社会の不倫とイコールにならない。
わたしはジャネットにすこしも裏切りを感じなかった。かのじょは、ただたんに未来への不安を感じていただけだ。
しかしそれは、夫の激怒をまぬがれないし、なによりジョーの少年ゆえの心に影を落とすだろう。
だが、かれは、成長して、やがて大人たちの気持ちを知るかもしれない。
さいごに家族でポートレートを撮ったとき、すでにジョーには許容のけはいがあった。
あますぎでもなく、からすぎでもなく、哀しいけれど、なんとなくさわやかさもある映画だったと思う。それは、マリガン/ギレンホールもさることながらEd Oxenbouldの功績が大きかった。
そしてそんな人生を噛み分けたような普遍を2018年に34歳だったポールダノがもっていたことに圧倒された。日本の34歳はこれをつくれるだろうか?とか思った。
子供に罪はない
ゴルフ場での仕事を解雇され、再雇用の道もあったが、プライドが邪魔をし、職に中々就かないジェイク。終いには、命の危険があり、金にはならないのに、山火事の消防団の仕事で家族を残し、家を出てしまう身勝手さ。生活も不安だし、やがて寂しさから、夫への愛情をなくすキャリー。荒んだ母親をキャリーが上手く演じている。やがて、生活力のある年老いた男を頼りにしようとしていく。息子であれば、母親の女の部分は見たくない。子役エドが、文句を言いたいのだが、終始黙って、苦悶の表情。グレたりしない、良い子の典型。子どもおじさんのような落ち着いた演技が光っていた。ラストは母親のみ離れた場所で暮らしている設定だったが、3人での記念撮影を機に、また元に戻ってくれれば良いな。キャリーは年取ったけど、時折見せる笑顔がキュートでした。
子供はどうすればいいんだ!
父(ジェイク・ギレンホール)がゴルフ場を解雇され、頭にきて森林火災の消火に行ってしまう。
残された母(キャリー・マリガン)は働きに出るが、落ち着いた中年男に魅かれていく。
14歳の息子は親のバタバタに右往左往、翻弄されていく。
子供の成長なんて大人の誤魔化しだと思う。
『プリズナーズ』でジェイクに○○○○ていたポール・ダノ
映像はきれい
人は、幸せな瞬間を永遠に残そうとするために写真を撮る。
血が騒ぎ、家族を放り出す父。退屈を嫌い、富に憧れる母。彼らは本能のままに生きる野生動物(wildlife)ということ。wild lifeではなくて、wildlife。ともすれば、父親や母親に感情移入してしまいそうになるが、この映画の主人公はまぎれもなくジョーだ。つまり、僕までも、大切にしなければならないジョーを置き去りにしてしまいそうになっている。それがだらしない大人ってわけか。
ポスターに映る二人は、ジョーの両親のみ。当然、その間の椅子がジョーの場所だ。
正直、そのことをずっと忘れていた。観終えてこのフライヤーを手にし、ひと山もふた山もあった夫婦が見つめ合う画に目を落とした。この瞬間を残そうとするジョーの心情を想い、この二人がいたからジョーがこの世に存在したのだと確かめたとき、狂おしいほどに胸が苦しくなった。そうか、今うちの家族も、これと似たようなものだからだ。
ハリボテ夫婦と息子のイニシエーション
ポールダノの初監督作品。おめでとうの気持ちで見に行った。
そういうのを脇に置いても佳作と言えましょう。好きなやつです。
この夫婦は、おそらく30代半ば。
30代半ばは、必ずしも成熟していないのです。
夫の身勝手さに身震いし、妻の不自由さに息が詰まりました。
夫が火消しの仕事(という名の逃避行)に行ってから、妻は働き始めますが、適度な働き口はなく、プロ愛人?みたいなよくわからんことになっていました。
この妻の迷走っぷりは、なんとも愚かでリアルで、でも息子がかわいそうで、辟易しました。
離婚してスッキリした2人が観れてよかったですが、その結論までを付き合わされるこどもが本当に気の毒。でも、でも、息子にとっては大人へのイニシエーションにもなって。
時代の不自由さ、登場人物の愚かさと悲しみ。
楽しい嬉しい大好きの世界とは違う、苦界をさまよう愚かな人間を断罪し、批判的でありつつも包括的には人を肯定する世界、といったらいいのかな?そんな世界が描かれてると思います。
私にとっては、とても、本物らしい世界。視点。
なので、好きです。
ただまぁ、元気な時でないと、しんどいかな。
疲れ切ってる時は、楽しい嬉しい大好きの単純で明るい世界が癒されますから。
ボクが運転するよ!ってキミもワイン飲んだやろ!
60年代アメリカ。キューバ危機の前か後かわからなかったけど、一般家庭でもシェルターを作ろうかなどと話題になってる時代。「富は富を生み」などとの台詞もあり、この時代でも格差社会の片鱗が見え隠れする時代でもあった。
失業率が高いといった風でもなかったけど、山火事の消火に駆り出される男たちの国を守るという生き様にも共感できる(時給1ドル)。『オンリー・ザ・ブレイブ』で見た“炎の熊”なんてのとも戦わなければならないんだろうぁ。ただ、山火事の場所はカナダのラジオ番組も受信してしまうモンタナ州。「初雪が降れば帰ってくる」とか、写真館での撮影とか、雰囲気はまるで韓国映画みたい。
家族の絆の崩壊と再生。などと簡単に言ってしまえばそれまでですが、人が死ぬほどの事件も起こらないし、のんびり構えていたために消防隊ボランティアに参加もできたんでしょうね。しかし、人のことは避難できる立場にないのですが、職を転々とすると、家族の目が変わってしまうのです。特にそれを敏感に感じ取るジョーの視点で描かれている点が素晴らしい。両親どちらのことも愛してるから、それを取り繕う大人な言動。終盤は、どーんと彼に感情移入してしまいます。
写真館のエピソードがそのまま伏線となり、ジョー少年もやがて写真関係か映画関係の道に進むんじゃないかと想像させてくれるのが幸せ感いっぱいになります。両親とも大学出だから頭も良さそう。ただ、宿題だけはたまに忘れる・・・
ちょっとだけガソリンってのが引いてしまい、そこだけは思い出したくない・・・7月18日以前に鑑賞できた人はラッキーですね・・・
子供が両親に翻弄させる映画❗
両親のキャラのデジャヴ感が残念。
【メモ】
ポール・ダノ初監督。
家庭のちょっとした綻びがどんどん広がっていくのを、
ただ成すすべなく見つめる少年の姿が居た堪れない。
少年の心の機微は丁寧に描かれているが、
両親のキャラにデジャヴ感があるのが残念。
父親は「ファミリー・ツリー」のブラピみたい。
写真に対する思いがよかったよ。
親は、人間は、野生の生き物。
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