「南と北の未来の為に輝いた“スパイ”という名の星」工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
南と北の未来の為に輝いた“スパイ”という名の星
今やすっかり国際ニュースの定番となった北朝鮮の核問題。
遡る事20年以上前…。
1990年代、北朝鮮に潜入して核開発の実態を探れ!
実話に基づくサスペンス。
そんなジェームズ・ボンドやイーサン・ハントでも難題なミッションを課せられたのは…
元軍人の韓国の対北工作員、パク。コードネームは、“黒金星(ブラック・ヴィーナス)”。
その方法は…
実業家を装い、北朝鮮の人脈に接触。3年の工作活動の末、遂に重要人物である北朝鮮の外資責任者であるリ所長の信頼を得る事に成功。
核開発が行われている付近でのCM撮影、そしてあの偉大なる将軍様と接見する時がやって来る…!
とにかく話が面白い!
どうやって接触/接近し、信頼を得るか。策を凝らした頭脳戦。
そして何より、このスリリングさ、緊迫感と言ったら!
巧みで着実な手腕で信頼を勝ち得ていくが、いつバレるか分からない。
リ所長はかなりのキレ者。
国家安全保衛部の軍人は何かと疑いの目を向けてくる。
本当は、バレているのではないか…?
危機は何度も。特に、将軍様との接見直前、保衛部の軍人に遂に…!?
将軍様接見シーンも圧倒的緊張感。
派手なアクションは一切皆無。なのに、この興奮!
これぞ本当のスパイ・サスペンスとしての醍醐味!
実業家を装った時の柔和な人柄、工作員としての苦渋の表情、ファン・ジョンミンの熱演。
クセ者揃う中、リ所長役のイ・ソンミンが存在感を放つ。
『悪いやつら』でも見応えあるサスペンスを手掛けたユン・ジョンビン監督が更なる上質な作品を。
それから、特殊メイクであの将軍様をそっくり再現・登場は注目。
命懸けの工作活動の末、遂に北朝鮮の核開発の決定的証拠を掴む!
…という、劇的エンタメな展開にはならず。
ある意味、劇的な展開へ。
本作は、何とも重く苦しく考えさせられる、社会派サスペンス/社会派ドラマであった。
北朝鮮に潜入してこの目で目の当たりにした、悲惨な現状。貧しい村では、ゴミと死で溢れ返っている。
リ所長もその部下もその現状に胸を痛めている。だが、この体制下、どうする事も出来ない…。
1997年、韓国の大統領選。目下、最有力候補者に反対派の上司たち。北朝鮮と裏取引。それにより、これまでパクがしてきた事が全て無になる恐れが…。
単純に韓国=善、北朝鮮=悪と描いていない点が絶妙。両国の問題や闇を浮かび上がらせる。
パクも当初は、祖国に忠誠を尽くす工作員として行動していただろう。
が、かつて一つだった南北に分断された両国の為、工作員活動や政治の暗躍より、本当に事業で友好を再び…と、奔走する姿が胸を打つ。
パクとリ所長の間に芽生える絆。初めて交わした酒呑み。
しかし…
これは実話。
結末やパクのその後はこうやって映画になっているので知れ渡っている。
ラストシーンの南と北の初めての文化交流の場。
気付けば、10年の歳月が経っていた。
やっと、こういう場が…。
そこで、10年ぶりの再会も…。
昨夏公開した時から気になり見たいと思っていたが、もう期待以上!
面白さ、ハラハラスリル、考えさせられる社会派テーマ、そして感動…。
どうしてどうしてこうも、韓国サスペンスは面白い!?