劇場公開日 2019年5月25日

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「「私だけではないんだ」と勇気づけられる」パリの家族たち モーパッサンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0「私だけではないんだ」と勇気づけられる

2020年6月27日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

仕事を持つさまざまな女性の母子関係を中心とする心温まる家族の物語…、かと思いきや、いやはや、一筋縄では行かない。「多様な母子関係に配慮しきれないので、母の日のプレゼント作りはやめる」と宣言する教師と、激怒する母親たち。母親よりベビーシッターになついている子どもたち。「面倒くさい子ね」と言って娘を傷つける母親。会食しながら授乳する女性に「母親はそんなに偉いのか」とキレる独身女性。さまざまな立場の女性たちが、傷つき、傷つけ、イラつき、困惑し、疲れ果て、不安になる。母の日というステレオタイプの鋳型に収まらない現実がこんなにあるよ、映画は繰り出してみせる。母になること、母であり続けること、母の子であり続けることに、救いはないのか。映画は答えを示さない。私たちは、小さい頃から教科書、CM、ドラマなどの社会的なチャンネルから、理想の母子像をインプットされている。そのため、自分の現実を理想からの引き算で評価しがちだ。この映画は、さまざまな現実を見せることによって、「私だけではないんだ」と、見る者を勇気づける。話が進むにつれ、予期せず胸がキュンとしたり、ほろりとする瞬間が増えてくる。それは、女性大統領のように救いが示されるシーンもさることながら、何も解決されない些細な場面でもある。たとえば、妊娠検査薬を反抗期の娘に見つけられ、「ママはもう年を取り過ぎ。それに弟は一人でたくさん」と毒づかれた母親が、しばらくしてから、「まだ産めるか調べたかったの」としんみり言う場面とか。中国人の娼婦がスカイプで話している相手が誰かわかった瞬間とか。最後の数分は、今どきの表現を借りれば「号泣」状態であった。
PS ここで「号泣」と表現するのは、「号泣」本来の意味としてはまちがっています。

モーパッサン