「家族は生き甲斐」浅田家! 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
家族は生き甲斐
笑えて泣ける家族物語。
『チチを撮りに』『湯を沸かすほどの熱い愛』『長いお別れ』と連続当たり中の中野量太監督作。
これだけ好みの要素がありながら、何故か公開時何となく観に行かず…。
で、見てみたら、やはり良作であった。
事実を基に構成した浅田家の物語。
専業主夫の章、看護士の順子、真面目に働く長男の幸宏。
…に見守られながら、プロの写真家を夢見る次男・政志。
が、専門学校卒業後も冴えない生活を送り、家族を心配させていた。
そんなある日、政志にカメラを教えた父の言葉がきっかけとなる。
「昔、消防士になりたかった」
そこで政志は、父に消防士のコスプレをさせて写真を撮る。
母は“極妻”風、幸宏はレーサー、家族の“なりたかった夢”を写真に撮る。
それからも様々なシチュエーションでコスプレして、ユニークな家族写真を撮り続ける。
家族写真数あれど、こんな風変わりな家族写真は見た事無い。
家族全員で包帯グルグル巻きの怪我写真、大食い選手権、日本代表、選挙、バンド、海女さん、酔っぱらい、泥棒、疲れたヒーロー(←これ、一番笑える)などなどなど。
政志はちょっとヘンな人? それとも異端の才能?
家族皆で撮った数々の写真。
これで自信が付き、上京。が、現実は甘くなかった。
面白さは認められるも、「これってただの家族写真だよね?」と厳しい評価。何社も何社も…。
そんな政志を支えたのが、先に上京していた幼馴染みの若奈。
彼女の発案で個展を開き、とある出版社の目に止まり、やっと写真を出版。
ところが、全く売れない。
しかし、遂に遂に!
写真界の栄えある賞を受賞。
気付けば、何年経った事か。
写真家だけじゃないが、プロの道を目指すって本当に長くて波乱。
例外の人もいるが、一人の力じゃとても無理。
授賞式での父のスピーチが良かった。
家族は生き甲斐。
それは政志も同じだろう。
念願のプロの写真家としてデビュー。
自分の家族のように、要望に応じて写真を撮る。いつしか全国を回るように。
その最初の家族は、岩手県の家族。満開の桜を背景に。
こんな幸せな家族写真もある一方…
余命僅かな子供がいる家族。かつて皆で一緒に見た虹。それをシャツに書き、撮って貰う。
その時、政志の瞳に濡れ光るものが…。
それぞれの家族の思い、家族の物語。
それらを写真に撮り続けていたが、あの未曾有の大災害の日が…。
話題の豪華キャスト。
二宮和也、妻夫木聡、菅田将暉、日本アカデミー賞主演男優賞受賞者揃い踏み。
ニノはナチュラルながらも、ナイーブさも滲ませる好演。
兄役・妻夫木とも絶妙なやり取り。
菅田はさすがのカメレオン役者を見せる。
ニノとは2度目の共演&2度目の恋人役の黒木華。『母と暮せば』ではニノがポジティブ思考、黒木がおしとやかだったが、今回は黒木がグイグイいくタイプでニノが支えられる方で、立場チェンジ…?(にしても、あの逆プロポーズ!)
両親役の平田満、風吹ジュンも良かった。特に平田が泣かせる。
脇を固めた渡辺真起子、北村有起哉(一番泣かせたかも?)らも印象に残った。
邦画にはホームドラマの名手が多い。
中野監督はその新たな名手。
本作は監督作の中でも最もエンタメ要素高いのではなかろうか。
豪華キャストだし、前半はとにかくコメディタッチ。それに、ベタと言ってしまえばそれまでだが、夢を実現させるまでを感情移入たっぷりに描く。
だけど、それだけじゃない。
ユーモアとハートフル。
シリアスと、今自分に何が出来るかを模索する…。
東日本大震災。
被災地を訪れ、目の当たりにし胸を痛める。
その一方、出会いも。泥で汚れた写真を洗浄するボランティアに参加。真面目な好青年の小野クンや父親の写真を探す女の子らと交流を深める。
が、心境に変化が。家族写真が撮れなくなる。
まあ、無理もない。
多くの人が大事な家族を亡くした。そんな時、家族写真なんて撮れるものか。
今こうやって写真洗浄だって。北村演じるクレーマーの気持ちも分からんでもない。
でも、写真で家族と再会し、喜んでくれる人も沢山いる。
だけど、どうしても家族写真が撮れない。
今自分に何が出来るのか。
今自分は何を撮りたいのか。
今自分は何を撮れるのか。
答えを見出だせないまま、一度実家に戻る。
長らく留守にしていたにも関わらず、明るく迎え入れる浅田家。
が、程なくして父が倒れ、身体に麻痺が…。
「もう家族写真は無理かな…」
そんな政志の言葉が幸宏を怒らせる。
政志の模索、苦悩は続く。それは、プロデビュー前の燻っていた頃より深いかもしれない。
父の撮ったアルバムや思い出の地を兄弟二人で訪ねる。
そして再認識する。
家族は生き甲斐。
政志は被災地に戻る決意をする。
病気の父を残して行くのは心苦しい。でも、必ずまた浅田家家族写真を撮れると信じて。
政志は再び家族写真を撮り始める。
こんな時でも。
…いや、こんな時だからこそ。
辛い時でも、悲しい時でも、家族の思いが幸せを繋ぐ。
それを写真に撮り続ける。
人の記憶も残るが、写真はより鮮明に残る。
私も家族写真を引っ張り出すと、ついつい時間を忘れて見てしまう。
笑いも。
悲しみも。
幸せも。
全ての思いを写真に収めて。
浅田政志にしか出来ない家族写真。
そして、ラスト。
このユニークな家族にも遂に、悲しいその時がやって来た。
…と、思ったら!
何処までもユニークな、浅田家!