「”スクリプト・ドクター”も参与した、脚本の巧みさが光る作品。」浅田家! yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
”スクリプト・ドクター”も参与した、脚本の巧みさが光る作品。
著名な写真家、浅田政志氏の半生と活動に基づいた物語です。前半は三重県出身の浅田氏が東京で写真家として活動するに至る過程を、浅田家の人たちのおおらかで何事も楽しむ様子とともに描き、大いに笑わせてくれます。一方東日本大震災後の写真洗浄活動を中心に描かれる後半部は、やや物語の語り口がシリアスとなります。
このように本作は基本的には二部構成となっており、実際のところ物語の大筋は予告編を見たら概ね見当が付いてしまうのですが、それでも観客を退屈させずに良い意味での緊張感を保っているのは演出力と脚本の賜でしょう。
例えば浅田家の人々は、写真家を志す次男・政志氏に巻き込まれる形で風変わりな家族写真を撮影するようになります。通常なら家族写真を撮るまでに至る説得や家族の戸惑い、反発までも含めた一つのドラマがあってもおかしくないのですが、それを写真好きな父親との短いエピソードの積み重ねで、ほとんど言葉で説明せずとも「ああ、この家族ならごく自然にこうなるだろうな」と納得させるところは見事。そしてこの最序盤の描写が、後半のある大きな転機に結び付くなど、さりげないのに重層的な脚本上の仕掛けが施されています。こうした工夫が随所にちりばめられているので、画面から目を離せず、また伏線が明らかになった時の爽快感を味わうことができます。
後半部は東日本大震災後の写真洗浄活動が大きな軸となります。個人的に写真洗浄活動に数年にわたって参加した経験があり、被災写真の洗浄がどれほど大変な作業なのか骨身に染みているだけに、その辛さが前面に出ていたらどうしよう、とやや不安に思うところがありました。しかしここも、菅田将暉扮する小野さんの短い台詞や佇まいという最低限の描写に留めていたので、むしろあまり気持ちが波立つということはなく、ほっとしました。その代わりに展示された膨大な写真群が、作業の苦労と意義を雄弁に物語っているところに、強い説得力を感じました。
このように脚本の見事さに感心しながら鑑賞していると、最後のクレジットタイトルで「スクリプトドクター 三宅隆太」のお名前が。脚本のブラッシュアップを専門とする方が参加しているとは、なるほど見事な脚本になるはずだ、と納得(ただ、最終盤のあのオチがあるとしたら、最序盤のあのやり取りはなんだったのか、という疑問も残るんですが、これには見落としがあったんだろうか…)。
そして20代前半から40代までの浅田氏を演じきった二宮和也の演技力には驚くべきとしか。この人はほんとに年齢不詳だわ…。
パンフレットは、スクウェアサイズで値段はやや高めなのですが、これ自体が浅田氏の写真集として鑑賞することができるし、インタビュー記事も豊富なので、安い、というか、ただ同然!でしょう。劇中の写真は浅田氏自身の撮影によるものなので、写真集『浅田家』の写真と比較して驚くべき再現度に達しているのは当然なのですが、オリジナルと本作の違いを、このパンフレットで楽しむこともできるというサービスの良さです。
でしょ!二宮くんは何にでもなれる!実は司馬遼太郎の「街道をゆく」の「叡山の諸道」で描かれている最澄、彼を二宮くんで見てみたいと思っているのでありますよ、私。くれぐれも司馬遼太郎の最澄です。