「二宮和也は稀有な才能」浅田家! 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
二宮和也は稀有な才能
写真がない頃は肖像画だった。その人や家族が生きた証として、人は肖像画を描かせたのだと思う。本作品で紹介された写真を戻す活動が実際にあったことを知ると、写真は肖像画の元々の目的と同じように、人や家族の生きた証としての役割を持つことがよく判る。結婚式やイベントのカメラマンは、家族や関係者にとっては大切な役割を果たしていると考えていい。加えて言えば、人だけでなく事件や事故の写真も歴史の証として重要な役割を持っている。百聞は一見に如かず。戦場カメラマンや報道カメラマンも本当に大切な仕事をしているのだ。
「湯を沸かすほどの熱い愛」で宮沢りえに女の優しさの極致を演じさせた中野量太監督は、本作品では黒木華にその役を担わせた。微妙に間延びしつつあった前半を引き締めてくれたのは黒木華の若奈である。勝気な幼馴染の若奈は主人公浅田政志の絶対的な応援団だ。黒木華の存在感のある演技で物語に芯が出来た。
中盤を過ぎると政志がもがいている様子が上手に描かれ、二宮和也の俳優としてのポテンシャルが徐々に発揮されるようになる。同時に政志がカメラマンとしての本領を発揮する展開となり、作品はこのあたりから静かに盛り上がっていく。いくつかの家族写真、そして被災地、被災した子供との出会いなど、政志の人生に厚みが加わっていく。
後半は黒木華に代わって菅田将暉が登場し、政志の活躍をお膳立てする。その他の脇役陣の中では妻夫木聡や風吹ジュンらのベテランが政志を盛りたて、内海莉子を演じた後藤由依良は子役ながらとても達者な演技力で政志にきっかけを与えてくれる。
こういうふうに書いていると政志を演じた二宮和也は周りに支えられてばかりいるみたいな印象になるが、もともとそういう俳優なのだろうと思う。自分が主人公を演じていながら、周りの俳優が演じる役柄も際立たせる。逆に言えば主人公政志は割と普通だが、周囲の人達がキャラが立っている感じである。主役ばかりが目立つのと違って、一種の群像劇みたいになる訳だ。とは言っても観客にとっての主役はあくまで二宮和也である。これは稀有な才能だ。出しゃばらない演技で共演者の演技を受けとめる。多分どの俳優も二宮和也と共演したがるのではないかと思う。どの役者も楽しそうに演じていた。主役が突出しないことで役柄同士のバランスが安定するから観客としても落ち着いて観ていられるし、それにほっこりする。
本作品は「浅田家!」というタイトルの通り、家族の肖像を描いている訳で、二宮和也の主人公の演じ方は正しい。そして大変に上手だ。二宮和也ありきで書かれた脚本のような気さえしてくる。
母と兄と若奈の三人が互いに「ふつつかな」を言い合うシーンは、大切なことを言うのにも互いの付き合いが長すぎ距離が近すぎて、恥ずかしさを冗談に紛らすような微笑ましさがあった。こういうシーンは中野量太監督の面目躍如だ。「湯を沸かすほどの熱い愛」と同様に、とても温かい作品である。