劇場公開日 2019年4月20日

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「論争を超えて」主戦場 バラージさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5論争を超えて

2025年5月3日
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鑑賞方法:映画館

興奮

知的

驚く

いや~、面白かった。監督は当初は慰安婦問題にそれほどくわしくなく、自らが日本社会で受けた人種差別の経験をYouTubeで紹介したらネット右翼に攻撃されたこと、そして元慰安婦の証言を初めて報道した元朝日新聞記者の植村隆も自分と同じようにネット右翼に攻撃されたことを知り、慰安婦問題に興味を持ち理解したいと考えたそうだが、「20万人いたのか?」「性奴隷だったのか?」「強制連行はあったのか?」などなどについて、対立する双方の主張や意見を交互に紹介していく構成が面白い。最初のうちはイーブンのようでいて、徐々に旗色の悪くなった否定派はだんだんしどろもどろになっていき、最終的にはこてんぱんにやられてしまうのだ。多様な論点と情報量を盛り込みながら、整理されて非常にわかりやすく構成されているのにも感心したし、ある意味エンターテイメントとしても面白い映画になっている。とても初めての監督作とは思えない。韓国や米国にとって耳の痛い話もちゃんと盛り込んでいるのも公平だ。

論者たちも1/3ぐらいは名前を聞いたことのある人だが、櫻井よしことケント・ギルバート以外はしゃべっている映像をほとんど初めて見た。否定派の言ってることはほんとにめちゃくちゃなんだが、特に杉田水脈・藤木俊一・加瀬英明あたりはそれを通り越して、なんかコワイというか薄ら寒いというか、そこだけホラー映画のような。ただ、何人かの識者が指摘してる通り否定派の人たちのほうがキャラは立っていて、肯定派の人たちは常識的である分おとなしめに見えてしまうのは皮肉。

そして映画は終盤、慰安婦問題を超えて戦後日本史から現代日本の右派の動向へと切り込んでいく。岸信介から孫の安倍晋三へとつながる系譜である。「新しい教科書をつくる会」「靖国神社」「日本会議」……。安倍政権の動向については僕も知らないことがあってびっくりした。最後には、監督自身も当然ながら製作時には意図していなかったであろう当時の日韓問題や「表現の不自由」展問題にまでつながる話となっていた。まさにシンクロニシティというべきか。

バラージ
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