「いい仕事してますね~byアメリカの中島誠之助」ある女流作家の罪と罰 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
いい仕事してますね~byアメリカの中島誠之助
タイプライターで打った手紙にちょろちょろっとサインするだけ。ただ、そんなに簡単ではない。リー・イスラエルが取った行動は一人の著名作家の作品を読み漁り、文体も真似て、何気ない内容にちょっと味付けするだけ。古いタイプライターをわざわざ買ってきて、サインの偽造はテレビを台にして光を当てトレースする。便箋は熱を加えたりして古さを強調。文面は作家であるがため自分の表現すらできる希少作品でもあるのだ。
元々伝記作家であるがため、センセーショナルな手紙を作ることくらい朝飯前。苦労して伝記を書くより儲かることに気づいたリーは古書店も一ヵ所に絞らず、あちこちに売りまくる。調子に乗って作家ドロシー・パーカーに成りきるところも面白い。
彼女は夫と別れてからはずっとアパートに一人暮らしで猫を飼っている。飲み仲間であるゲイのジャックに心を許し、贋作の秘密を打ち明けるほどになった。リチャード・E・グラント演ずるジャックは彼女の自叙伝には詳しく書かれてないらしいが、エイズで周りの友人を失っている孤独な中年男性という点で分かり合えたのだろう。リーの偽造という罪の意識ですら、ジャックのドラッグ売買という罪より軽いと安堵感があったに違いない。
最初はいや~なアル中おばさんというイメージから始まったが、徐々にリーの行動に興味を持ってしまう。その背景にはジャックとの交流もあり、金にモノ言わせる収集家がバカに見えてくるのも原因だろう(ただし収集家は登場しない)。やがて、手紙の内容についての疑惑が持ち上がり、FBIの捜査対象となってしまうが、ある古書店の男が黙っててやるからと恐喝するのだった・・・親しくなった店主アナとももう会えない・・・と、ちょっとした緊迫感。
犯罪には間違いないけど、なぜだか嫌いになれなくなる終盤。この映画の原作ともなる同名タイトル本を執筆し、ようやく彼女の才能が開花したという点で応援もしたくなるほど。絵画の世界だと贋作が流通し過ぎてるけど、こうしたニセモノですら彼女の遺産となるのだから不思議な気分になりますよね。