「「ぬわーーーーっっ!!」」ドラゴンクエスト ユア・ストーリー カミツレさんの映画レビュー(感想・評価)
「ぬわーーーーっっ!!」
※レビュータイトルは本作を観終わった直後の心の声を表したものです。
ドラクエはもちろん強く思い入れのあるシリーズで、特に本作の原作にあたる「Ⅴ」は、リメイク版なども含めると優に10回以上はクリアしているほど大好きな作品です。予告編の中で、フルCGで再現され、動き回っているモンスターたちを見て、少し心が躍り、期待したのが大きな間違いでした。
大切な作品を人質に取られ、のこのこと劇場に足を運んだばっかりに、身動きも取れないまま(精神的に)ボコボコにされ、挙句の果てにラストの“アレ”をくらい、とどめをさされたような、そんな心境です……。
1.一見さんを置き去りにした不親切な脚本
本作はサブタイトルに「ユア・ストーリー」(かつてドラクエVをプレイしたあなたの物語)とあるように、ドラクエファンを意識したシナリオになっています。というか、原作をプレイしていないと、話が飛び飛びで全く意味が分からないと思います。
さらにNPC(ノンプレイヤーキャラクター)は、端折ったストーリーを強引に進めるため、説明的なセリフばかりを話しますが、「天空人」だの「マスタードラゴン」だの「ドラゴンオーブ」だの「大魔王ミルドラース」だのといった意味ありげなワードを並べるだけで、それらについての説明や描写はほとんどありません。有名な「パルスのファルシのルシがパージでコクーン」と同じような状態になっています。原作未プレイの人は全くついてこれないでしょう。
そのくせ作中でまともに描かれている場所が「サンタローズの村」(のパパスの小屋)「サラボナ」「大神殿」の三ヶ所ぐらいのものなので、世界がすごく狭く感じられます。「グランバニア」や「エルヘブン」すら出てこないので、パパスやマーサの出自もよく分からないままです。「世界観をちゃんと作りこんでいないのに、意味ありげなワードだけ並べて無理やり世界観を広げようとする」という、クソゲーRPGにありがちな事態に陥っています。
2.原作ファンを蔑ろにした不誠実な改変
原作をプレイしていないと、ストーリーも世界観も意味不明で魅力を感じにくい“一見さんお断り”のつくりになっているくせに、原作ファンにとってはいちいち引っかかる改変が多すぎます。
➀天空の剣をルドマンが持っている
原作では、パパスが伝説の勇者を探す長い旅路の果てに「天空の剣」を見つけたことになっています。パパスから主人公、主人公から息子へと剣が受け継がれていくところに、この物語が親子三代に渡る壮大なドラマであることが象徴されていると思うのですが……。ちなみに原作では、ルドマンが持っているのは剣ではなく「天空の盾」です。
➁ブオーンが弱すぎる
原作でのブオーンは、有名な“詰みポイント”にもなっているぐらい強力な中ボスです。戦闘前の演出と相まって、多くのプレイヤーに絶望感を与え、下手するとラスボスの「ミルドラース」以上に強烈な印象を残しているモンスターではないでしょうか。それがまさか、「バギマ」程度であっさり倒されるなんて……。なんか、思ったよりちっちゃいですし。
➂主人公と息子の名前
主人公の名前が小説版由来の「リュカ」なのに、息子の名前は「ティミー」ではなく、なぜか「アルス」。細かい部分かもしれませんが、ファンへの配慮(あるいは監督のこだわり)が感じられません。これなら、デフォルトの「アベル」(主人公)と「レックス」(息子)でよかったんじゃないでしょうか。(そうすれば、小説版の原作者に訴えられることもなかったでしょうし。)
➃娘(タバサ)はどこにいった!?
原作では、主人公に息子(レックス)と娘(タバサ)の双子が生まれるのですが、映画ではなぜか息子だけになっていて、娘の方はいないことになっています。これだけの重要キャラクターをあっさりと切り捨ててしまえる監督には、不信感を抱いてしまいます。
➄軽いノリでしゃべりまくる主人公
映画化にあたって仕方のないことだとは思いますが、ゲームでは一言もしゃべらなかった主人公がべらべらとしゃべっている姿には違和感を覚えてしまいました。いや、別にしゃべるのは構わないのですが、あのヘタレ男子中高生みたいな軽口はなんとかならなかったでしょうか。物語中盤は「ビアンカかフローラか」という話を、ラブコメのような軽いノリで延々とやっているのですが、出来の悪い二次創作を見せられているようで、気恥ずかしくなりました。
あとBGMに関しては、すぎやまこういちさんによる元の楽曲が素晴らしすぎるので、否応なくアガる部分もありますが、「V」以外の楽曲も見境なく使いまくっていますし、いくらなんでも節操なく流しすぎです。「このBGMはこの場面には合っていないんだけどな……」と思う場面が多々ありました。
3.とどめの“メタ”ゾーマ!
さて、極めつけがラストの“アレ”です。そもそもの意味深なサブタイトルに加え、冒頭に出てくるスーファミ版そのままの映像や、モンスターが倒された時のデジタルな処理(消えてなくなり、お金をばら撒く)、また、時折メタ発言とも取れるセリフが散見されたので、なんとなく嫌な予感はしていたのですが、まさかこんな使い古されたネタを最後の大オチにもってくるなんて、たまげました。ダサすぎです! 負の衝撃度でいうと、まさに「メラゾーマ」級。心の中でパパスのように「ぬわーーーーっっ!!」と叫んでしまいました。
メタフィクションにすることで、先ほど述べた違和感や不満点のいくつかを説明することもできますが(例えば、主人公が男子中高生みたいな軽口でしゃべる点)、はっきり言ってそれは作り手の“逃げ”です。ドラクエの世界をきちんと作り上げることができなかったことへの言い訳のようで、本当にダサいと思います。
主人公がのたまっているのも、要は「ゲームだけど、これも現実なんだ!」ってことですが、そんなことは言われなくても分かっていますし、言葉にするのは野暮ってものでしょう。主人公に直接セリフで説明させてしまってはおしまいだと思います。
4.『ダニーの奇妙な冒険』
最後に余談ですが、私が大人になってから出会い、感銘を受けたドラクエVのプレイ動画『ダニーの奇妙な冒険』を紹介させてください。
「ダンスニードル」の「ダニー」を筆頭に、通常のプレイではあまり使われることのない“マイナーモンスター”たちをフィーチャーしたプレイ動画なのですが、「本筋のストーリーとは全く別の“もう一つのドラクエV”が生まれている!」と猛烈に感動し、実際に同じパーティーでゲームをクリアしたこともあるぐらいです。シリーズ最後の動画に付けられた「いらない子なんて、いなかった」のタグは、今でも深く心に残っていますし、一緒に冒険した「ダニー」「ピーコ」「マーリン」「ロッキー」「アイリン」「エミリー」「ネレウス」はいつまでも私の心の中で生き続けます。
この『ダニーの奇妙な冒険』に限らず、ドラクエはプレイした人の数だけドラマが生まれるゲームだと思います。だから、映画のことなんて早く忘れて、ドラクエVを実際にプレイしてみてほしいと思います。ぜひ本当の「あなただけの物語」を紡いでいってください。
「大丈夫、あなたの物語は山崎貴・脚本じゃない」
カミツレさん、お久しぶりです!
コメントありがとうございます!
原作未プレイだけどこっちも「わーいわーい!」です!
諸事情あって近ごろ映画から遠ざかっていたんですが、会社の先輩が「きびなご君、『ドラクエ』観た? スゴいらしいよ、『デビルマン』並みらしいよ」と言うので気になりだし、それでネットを見たら真夏のキャンプファイヤー状態じゃないですか。
懇意にしてもらってるレビュアーさんのスコアも鈍いし、あんまり作品を批判する印象のないカミツレさんも久々のレビューで星1つ(!)でしたし、こいつは尋常ならざると思ってですね、怖いもの見たさで鑑賞してしまいました。
いやけどこれホント、白組の頑張りが無かったら『デビルマン』級と言われてもしようが無いんじゃないかと思えるほどに粗いですよね。垢すり用ヘチマかと。
「ラスト10分までは~」は僕も考えられないです。ダイジェスト部分だけじゃなく、世界が狭っ苦しく感じる場面移動、謎の無い謎解き、ブツ切りの音楽、笑えないユーモアと、映像以外は総じてイマイチじゃないですかね。
そうやって世界観やキャラの魅力を描くことを放棄(“逃げ”という表現は非常にしっくり来ました)しといてあのオチじゃないですか。そりゃ「長年のファンを馬鹿にしてんのか」と言われてもしようがないですし、『ドラクエ』どころか“物語”そのものに対する侮辱くらいに思えましたね。僕のレビュー中では晴れて4年ぶりの1.5判定です。
毎度長々と返信すみませんがこの辺で!
久々のレビューが怒りのレビューになってしまったのはお気の毒ですが、またふら~っと気が向いた時にでもレビュー書かれてくださいな。楽しみにしております。
返信お気になさらず! それでは!
どーも、お久しぶりです。
やっぱりドラクエファンにとっては最悪でしたよね。
俺的にはパパスとゲマと部下の戦いで、
主人公たちにベホイミをかけながら頑張る姿に涙したものです。
あとはサンタローズが廃墟になったところとか、
妖精の国も子供時代を映さないと感動半減するとか
泣きどころがいっぱいあったように記憶してるのですが・・・
とにかく残念です。