劇場公開日 2021年10月15日

「燃え斬らぬ剣」燃えよ剣 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0燃え斬らぬ剣

2021年10月23日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

興奮

難しい

『関ヶ原』に続いて、司馬遼太郎原作×原田眞人監督×岡田准一主演による大作時代劇。
あちらはタイトル通り天下分け目の大決戦と言われた“関ヶ原の戦い”が題材だったが、今回は日本人なら誰もがその名を知っている“新撰組”。
新撰組と言うと多くの映画やTV時代劇、時にはアニメなどにも登場。近年は『るろうに剣心』や『銀魂』で知っている人も多いかもしれない。
でも、それらって脇役だったりコメディ的な変化球。
案外知ってるようで知らない新撰組。
真の新撰組とは…?
真っ正面から斬り込む!

本作の前に、U-NEXTで配信されていた市村泰一監督×栗塚旭主演の1966年の最初の映画化も鑑賞。(レビューは書かなかったけど)
量産されたB級時代劇的で、正直今一つ…。
だいぶ印象も違った。ライバル剣士・七里との因縁はナシ…と思ったら、これ架空の人物でフィクションだったのね。
とは言え、同エピソードも。原作が同じだから当たり前か。
“バラガキ”と呼ばれた土方の青春時代、近藤や沖田との友情、新撰組の結成…。
新撰組結成のエピソードは目から鱗だった。
厳しい規律まで作り、新撰組=真の武士であろうとする土方。が、実際は寄せ集め。派閥や内部分裂。発足人・清河の方針とは合わず。初代局長・芹沢や新見は治安維持の新撰組でありながら女金の傍若無人の悪行三昧。
いつの時代も人の私利私欲や不正は無くならない。
重厚なドラマ演出で、社会派作品に手腕を振るう原田監督ならでは。
対立。この時代それは、剣で交え、粛正するという事。
新撰組誕生にこんなにも心を非情にし、大量の血が流されていたとは…。
“鬼の副長”の異名はここからも来ているのであろう。
本当に知ってるようで知らない新撰組だった。

新撰組の名を轟かせたのは、潜伏していた長州藩/土佐藩志士を襲撃した名高い“池田屋事件”。
敵には怖れられ、近藤を局長に、やるべき事の為に一切の妥協を許さない。
しかし、近藤や沖田、近藤の兄弟子・源三郎らの前では…。
同郷田舎の若者。
“鬼”が笑顔を見せ、他愛ない冗談を言って笑い合う。
誰しも根底にあるのは同じ。
義兄弟のような契り、固い友情があるから闘える。強くなれる。信じられる。

それらを体現したキャストたち。
今、同世代で最も時代劇が似合う漢。岡田准一が土方をストイックに熱演。
鈴木亮平もあの極悪ヤクザから信頼置ける局長…いや、“兄貴分”へ。
真実か否か定かではないらしいが、明朗な性格の天才美少年剣士の沖田。非業の病死も含め、山田涼介の好演も光る。
お雪との恋。柴咲コウが一歩引いた大和撫子を魅せるが、終盤の「私は土方歳三の妻です」の台詞は芯の強さを感じる。
芹沢を演じた伊藤英明の憎々しさ、荒々しさ。
土方らが織り成す人間ドラマと共に、旧幕府、新幕府、朝廷の思惑が交錯する群像劇。
重層的に展開していく。

岡田と山田が見せるスピーディーな殺陣はさすがのもの。
狭い池田屋で繰り広げられる襲撃は緊迫感溢れる。
終盤の鳥羽伏見の戦い、五稜郭の戦いはスペクタクル充分。
スリリングと迫力あると共に、血が流れ、剣で斬り合う痛々しさも。
単なるチャンバラ時代劇に非ず。

まだこんな風景残ってるんだ…と浸らせてくれるロケーションや日本家屋、オープン・セットが素晴らしい。つくづく、日本人で良かったと思った。
福島県民としては新撰組誕生に会津藩が大きく関わっている事が見逃せない。
池田屋事件、近藤の死、沖田の病死…。
衰退していく新撰組。
それでも土方は北上し、たった独りでも闘いを続けるが…。
…と、ここまでは良かった。

前半~中盤はじっくりドラマが描かれていたのに、終盤はかなりの急ぎ足。原作ファンによると、これでも相当ダイジェスト的というから驚き!
そもそも、新撰組や土方の最期って…?
歴史に疎く、恥ずかしながら知らない。
関ヶ原の戦いは最後はそれなりに知っていたのだが…。
当初はこちらの方が見応えあったが、その差はじわじわ大きくなった。
熱い生き様、悲しい散り様には胸に迫るものがあった。
が、少々分かり難く、知らないと興味持続出来ない部分もあり、置いてきぼり感も食らった印象だった。
タイトルに掛けて言うなら、ちと不完全燃焼。“燃え斬らぬ剣”であった。

新撰組と言うと善のサムライ集団とばかり思っていたが、完全なる英雄として描かれていないのが意外であり、驚きだった。
前述した通り悪行や不正に手を染めた者、内部争い、規律を守る為に切腹…。
カッコ良くもある。武士道精神。
が、呆気なく散った。僅か6年…。
悲運の集団。日本人滅びの美学。
それらが今も尚、日本人の心を捉えて離さないのだろう。

近大