劇場公開日 2021年10月15日

「役者○殺陣◎脚本・監督△→トータル△」燃えよ剣 たけのこごはんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0役者○殺陣◎脚本・監督△→トータル△

2021年10月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

岡田准一(土方歳三)、山田涼介(沖田総司)、柴咲コウ(お雪)、村本大輔(山崎烝)の演技が光った。しかし尺の都合上どうしても駆け足で描かなければならない事情もあり、原田監督の映画監督としての手際の良さがかえって作品を陳腐にしてしまった印象が強い。幕末の男たちの物語は大抵泣けるのだが、この作品には泣ける要素が一切なかった。

まず良くなかった点を順に述べたい。第一に、映画の主題が致命的にぼやけてしまっていた。『燃えよ剣』という原作タイトルをそのまま採用したならば、主題は「剣に生きた男」でなければならなかったが、中身は単に土方歳三の伝記だった。一応、剣にまつわるシーンを無理やり詰め込んではいたが、やるなら徹底して最後まで貫かないと、たとえば「和泉守兼定」と出会ったシーンそのものが映画の中で無駄死にしてしまう。柄本明まで使って気合を入れて撮影したシーンであったはずなのに、兼定を描いたシーンはそこだけで何のフォローアップもなく、タイトル『燃えよ剣』の意味が雲散霧消してしまった感は否めない。

第二に、監督としての余裕を見せたかったのだろうが、映画の中に入れた「遊び」が完全に邪魔だった。ウーマンラッシュアワーの村本大輔は好き嫌いの分かれるお笑い芸人ではあるが、作品の中では非常に重要な役割(池田屋事件の潜入調査)を見事にこなしていたように思う。しかし、新選組に入隊するシーンでは例の早口芸を十秒近く披露させたり、随所に「村本大輔」を感じさせる演出を盛り込んでしまった。原田監督の遊び心なのかもしれないが、彼のせっかくの好演を空しくしてしまう余計な演出だったと言わざるを得ない。山崎烝を感じたいのに、村本大輔を感じさせられては、いちいち映画の中から映画の外へ意識をつまみ出されて、うざったいことこの上ない。

第三に、重要人物の描き方が大変雑だった点を挙げたい。司馬遼太郎は『燃えよ剣』も書いたが、『新撰組血風録』や『最後の将軍』も書いた作家であり、これらを読んだ身からすれば、あれほど近藤勇や徳川慶喜を雑に描けてしまうのは少々信じ難いことだった。次第に変化していく近藤の振る舞いを「最近おかしくなった」で済ませたり、徳川慶喜を徹底的に逃げ腰の15代将軍として描かれてしまっては、それぞれの正義を感じ取ることも、心の機微に触れてその深みに涙する映画そのものの醍醐味も、失われてしまって当然だ。

ただし良かった点も当然ある。特筆すべきなのは、土方歳三の匂い、体温がつくづく感じられる作品だったという点。独特の歩様、田舎剣法の武骨な様、スマートな見た目とは裏腹な豪胆さ(ギャップ萌え)をよく描けていた作品で、これらを体現した岡田准一はもはや、三船敏郎級の日本歴史映画の大スターにのし上がったと言って良いように思う。

またセットやロケ地の選定も良かった。新見錦粛清のシーンで使われたセットのおどろおどろしさや、芹沢鴨暗殺現場の八木邸の間取りのリアルさなど、歴史好きにも十分満足できる内容だった。

つまるところ、この映画は役者やセット、ロケーションといった素材は一級品であったにも関わらず、ターゲットとなる客層をあまりにも広く意識しすぎたことから、全体的には極めて凡庸な味わいに落ち着いてしまった勿体ない作品と評価することが出来ると思う。具材としてよく煮込まれた岡田准一、山田涼介、柴咲コウ、村本大輔と、生煮えの鈴木亮平、山田祐貴が同居して、ごく少量の高級付け合わせとして山路和弘や柄本明が添えられた市販のレトルトカレーが、清水焼の高級皿に盛り付けてあるといった感じ。

たけのこごはん