「淡々と戦場を描くだけでもドラマは生まれる」アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
淡々と戦場を描くだけでもドラマは生まれる
第二次世界大戦、フィンランドは枢軸国側だ。つまり負ける。
前半は前の戦いで失った土地を取り戻すべく前進。ただ戦闘と前進を繰り返すのみ。後半は撤退、撤退、撤退。
過剰なドラマもほとんどなく、非情な戦場を描き続けるのみ。
人もバンバン死ぬ。戦争映画なんだから当たり前だろと思うかもしれないが、この手紙を家族に渡してくれとか、神に祈ったりとか、死にたくないと喚いたりとか、そんな映画的なものはほとんどない。ただバタリと倒れ次々に屍となっていく。
一番の主人公格であるロッカが多少語るが、この戦いの意味や負けることの意味を過剰に言葉にすることもない。
本当に前進と戦闘と撤退がほとんどで、群像劇のような作りなこともありキャラクターの認識すらおぼつかない。
それでも何かを感じることができるのは、至るところに散りばめられた一瞬の描写にある。
例えば、前進していたときは体に悪いからと煙草を吸わなかったロッカが撤退中に煙草を吸っているシーンがある。あれだけ勇敢に戦っていたロッカでさえ心が折れたことを表す。
そんな一瞬が積み重なって悲劇や勇気や場合によっては政治的な何かとか、人によるだろうが映画が訴えている何かを受けとることができる。
淡々としていて戦闘以外の刺激も少なく、見方によっては退屈ともいえるわけだが、それでも普通に観ていられるのは、まず一番にCGを多用しないリアルな戦闘シーンにあると思う。
1シーンで使われた爆薬の量でギネス認定を受けたそうで、その本気度がうかがえる。
そしてなにより、戦場の空気感の表現に優れていたように思う。
邦画などではお金を出す方々の意向により映画であってもテレビドラマのような明るい画で、これが邦画がよくテレビドラマクオリティと低評価を受ける一番の理由だと思っているのだが、本作はそんなことはない。
暗くて見辛いというわけではなく、あくまで空気感だ。気温や湿度がこちらに伝わりそうな空気感。戦場にいる名もなき兵士の心情を表すのにこの空気感が後押しする。
傑作だとは思わないけれど、日本人にはわからないフィンランド人には刺さるものはあるようで、その年のフィンランドで興行一位だったそうだ。
こういった作品がヒットする土壌があるのは映画ファンとしてなんだか羨ましいなと思った。最近の日本だとアニメ映画か娯楽系大作しかヒットしないからね。