「一貫したストーリー構成とあの頃の想い出」サイダーのように言葉が湧き上がる の。さんの映画レビュー(感想・評価)
一貫したストーリー構成とあの頃の想い出
本作はコンプレックスを抱えた2人の人物が主役である。
・声にコンプレックスを抱き、対人関係を狭める主人公
・出っ歯にコンプレックスを抱き、マスクを付けて生活を送るヒロイン
この視聴者に共感させる題材の選び方に感銘を受けた。
・SNS主流のオープンな様で疎遠になりがちな対人関係の閉塞感を、心のどこかで感じている人は少なくないだろう。そんな対人関係のクローズド感をコンプレックスで共感させにくる点。想像もつき易く、また、思春期の学生っぽさも感じさせて飲み込み易かった。
・コロナ禍の時代背景を投影したマスク依存傾向に共感性を見出させている点。また、年頃の、思春期の少年少女には付き物である自身の外見に対するコンプレックス。やはり人が経験して想像し易いであろうことを感じさせる点に優れている。
この2人が共通の課題に取り組みながら打ち解けあって恋を成就させると言った点。どこにでもあるモールで起こる何でもない日常的なアニメである点に、どこかマンネリ感を覚える視聴者を多く見る。
しかし、退屈だから駄作なのだろうか。
客層が違うだけ、感性が違うだけで本当にこの作品の構成や伝えたいことは低俗なのだろうかと吟味することも大切なのではないかと思う。
それを考えさせるのが、本作品の主軸となる山桜の詩である。
コンプレックスと捉えて心を閉していたことも、奥ゆかしく美しい詩や言葉で包み、伝えてあげることで開かれていくのではと考える。
もし仮に、この山桜の使い所が陰口や噂話として使われていたらそうは感じないだろう。
何を意識して、どんな場面で、伝えたいことは何だろうと考えることで初めて送られたものに価値を見出せるのだ。
そういった意味でこの作品は私たちに、心の豊かさを思い出させ、ノスタルジックな胸を締め付け撫で下ろすもどかしさも感じさせ、また日常の有意義さも再認識させてくれる作品であったと考える。
ただ受け取り消化するだけでは退屈だろう。
考えを人に如何に伝えるかを、人は何を伝えたいのかを意識した時、この作品は大切なことを幾つも教えてくれる素晴らしい教材にもなる。