「胸にキリキリと突き刺さるがとても重厚な人間ドラマです。」閉鎖病棟 それぞれの朝 マツマルさんの映画レビュー(感想・評価)
胸にキリキリと突き刺さるがとても重厚な人間ドラマです。
個人的に気になる女優さんの一人である、小松菜奈さんが出演している事と、予告編などで鶴瓶さんが叫んでいる台詞が“コラッァア!”と怒鳴っているのか、“来るなぁ!”と言っているのかが、どうにも判明せずw、そんな所も気になって観賞しましたw
で、感想はと言うと、良かった。
とても重い話ではありますが、とても良い人間ドラマです。
全体的に重々しく、淀んだ空気が立ち込める様な圧迫感と閉塞感。
胸をキリキリと締め付けられる様な緊迫感。
重く悲しい出来事に胃が痛くなる様な切なさと悲しみ。
人を平気で傷つける輩に胃が熱くなる様な怒りが込み上げる
時折見せる幸せなシーンには安心と言うか、ホッとする。
全体的にやっぱり重いのに、目が離せない。
117分と言う上映時間中、目を離さず観賞してました。凄い骨太のガツンと来る作品です。
ここから結構ネタバレになりますが、最初に難を言っておくと、小松菜奈さん演じる由紀を陶芸工房で暴行する重宗の入院する理由がはっきりされてないので、“なんで、こんな男を入院させているのか?”が不明瞭過ぎる。
もう、何かしらで事件が起こる事のフラグが立ち過ぎている事。
次に重宗を監視している病院の職員がマヌケ過ぎる。売店で雑誌を読んでいて、目を離している隙に事件が起きたって、“どんだけ熱中して読んどんねん! お前が職務怠慢してるから、あんな事件が起きたんやんけ!”と怒りが込み上げる!
ちょっと目を離しているのが長すぎるし、それでいて見つけられてないなんて、ちょっとどうかなと。
最後に暴行された後に病院を抜け出した由紀がどうして看護師見習いまで立ち直ったかが、描かれてないのが惜しいと言うか、そこはきちんと描かないと。
てっきりスナックから出てきた恰幅のよいオバチャンが立ち直るきっかけを与えるかと思えば説教してスルーw
家族の元にも帰れない由紀がどうやって立ち直ったかは確りと描いて欲しかったです。
最初の鶴瓶さん演じる秀丸が死刑執行されるシーンからいきなりガツンとかまされました。
モノクロで重々しく、固唾を飲んで観ている緊迫感。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のラストを思い出すかの様な重々しさです。
精神病院と言う、一般的には外部に開放されずらい中での描写はなかなか難しいものがあると思います。リアルに描き過ぎると必要以上に生々しいし、かと言って中途半端に表面だけなぞった様な表現では軽くなる。
人権問題や倫理モラルが厳しく言われる昨今ではなかなか難しいかと思いますが、劇中の精神病院内部の描写だけでも十分に閉鎖感が漂ってきます。
鶴瓶さん演じる秀丸と綾野剛さん演じるチュウさん、小松菜奈さん演じる由紀の三人が中心に話が進みますが、それぞれが抱えた過去はどれもヘビーです。
中でも秀丸と由紀は重すぎる。
認知症の母親と妻を養いながら、悪天候から仕事を早引きした秀丸が家に帰ると妻と役場の職員が不貞を重ねている。カッとなって妻と男を殺害し、介護が出来ないから、母親も手を掛ける。
死刑が執行されるが、奇跡的にも息を吹き返す。
この一連の話で15年前に京都で起こった認知症の母親の介護が経済的にも出来なくなり、母親と一緒に心中を図った男性の事件を思い出しました。
もう、これだけで胸が締め付けられ、胃がキリキリと痛くなります。
由紀は義理の父親に暴行され、入院の際の検査で妊娠が発覚。病院の屋上から投身自殺を図るが奇跡的にも助かる。でも身籠った子供は流産。
父親が退院を促して家に帰るが、母親に義理の父親と別れてと嘆願しても母親は父親との出来事を知っていた。
そんな由紀が心の拠り所にし、立ち直ろうとしたきっかけの病院の中でも暴行される。
もう胃が痛くなると言うか、怒りが込み上げてくる。
病院を抜け出し、ビルの隙間で慟哭するシーンは悲しすぎる。こんなにも酷い目に何故合わなければならないのかと思ってしまう。
個人的には弱者を面白がって暴行するシーンは大嫌い。
女性を力で暴行する様なシーンは吐き気を催し、怒りが込み上げる。
何度途中で誰か助けてくれないのかと思っても、義理の父親には妊娠させられ、重宗にも工房で暴行される。
もう腹が立つと言うか、こんなシーンを描かないと駄目なのか?と思ってしまう。
いろんなシーンの描写で感情移入や思いを馳せさせる手法は分かるけど、出来ればこう言った描写は観たくないんですよね。
三人の中で1番軽く感じるw、チュウさんは1番まともに見えるが、突発的なきっかけで幻聴に悩まされている。
精神病院に入院しなくても良いかもしれないが、精神病院に入院してないとどうなるのかと言う強迫観念に苛まれる。
退院して母親との再会時の“おかあちゃん”にはホロッと来ました。
三人ともとても難しい役柄を演じられてますが、どれもキリキリと突き詰められる役の心情に胸が痛くなりました。
先日公開された「楽園」にも綾野剛さんは出演されていて、ヘビーな作品に立て続けですが、綾野剛さんも小松菜奈さんも今までのキャリアの中でもかなり難しい役をされたかと思いますが、とても良かったです。
また、小林聡美さん演じる看護師長の井波が良い。厳しくも暖かいサポートで精神病院と言う閉鎖された空間に暖かさを覚えます。
また、退院時のチュウさんに送った言葉の“ダメだった帰ってきても良いんだよ”の言葉にはホロッと来ました。
厳しい言葉を投げる事で相手に奮起を促す事もあるけど、誰もが皆強い訳ではない。
一歩踏み出す先には心が折れそうな時に優しい言葉が励みになる事もある。
精神病院から退院して踏み出す者だけでなく、観ていてもホロッと来る優しい言葉でした。
あと入院患者の平岩紙さん演じるキモ姉も良い感じ♪
“若いコばっかり優しくして!”と悪態をつきながらも、チュウさんが退院時には窓から“二度と戻ってくるなよ!”と言う言葉には彼女なりの優しさが感じます。
山中崇さん演じる由紀の義理の父親と渋川清彦さん演じる重宗には本気で怒りと殺意を覚えました。
でも、これも役者さんの技量が観ている側に映画にのめり込まさせている訳ですが、…やっぱりムカつきますw
演じられる役者さんの熱が伝わる中で、外出した際の公園での食事や記念撮影はとても良いシーンで、また由紀が橋から見る夜明けの空はグラデーションがとても綺麗。
久し振りに夜明けの空を見たくなりました♪
外出した際に四人、特にカメラを持った昭ちゃんが外出先でいじめられたりするんではないかとドキドキしましたが、それが無かったのと良い♪
幸せな時間は出来るだけ壊してほしくないんですよね。
クライマックスの裁判所での証人喚問の場面は見応えがあります。
あの事件をまた思い出すのかと言うのが観ている側にも突き刺さる。
精神病院と言う、行き詰まりの様な空間にそれぞれが事情を抱えて入院し、退院する際も全ての人が希望を持って退院する訳ではない。
秀丸の台詞にあった“ここに長く居てたら、患者と言う生き物になってしまう”は真理ですが、世間の風は冷たく、ここでしか希望を見出だせない事情だってある。
決して他人事ではないし、何時如何なる時に自分や家族がそうなるとも限らない。
それぞれの立場での事情もあるから、一概に入院させた家族だけが悪いとも限らないが、少なくとも人に優しくなりたいと思います。
だからこそ、重く突き刺さる内容ですが、見失いがちな小さな光を示してくれる。
そんな風に感じる映画で観て良かったです。
長文になりましたがとてもお薦めの作品です♪
近大さん
コメントありがとうございます。
いろいろな感想があるかと思いますが、良い点も難点も一緒とはなんか嬉しいです♪
結構重い作品であり、ヘビーではありますが、個人的には昨年のベストな作品の1つです。
コロナの影響でなかなか劇場での観賞が出来ない日々が続きますが、また再開した暁にはいろんな作品を堪能したいですね♪
また、お暇な時にでも覗きに来て下さいね。
予断の許さない日々が続きますが、御自愛下さい。
wakakusuさん
コメントありがとうございます。
自分の拙いレビューを見て、観賞のきっかけにして頂けるなんて光栄です。
重い部分も多々ありますが、とても良い作品かと思いますので、是非楽しんできて下さい。
またお暇な時にでも覗きに来て下さいね♪
おはようございます。自分もこのレビューを見て見に行こうと思います。世界全体色々な分野で行き詰まり、厳しくなっています。この閉鎖病棟の映画も高齢化、格差等の身近な問題等に目をつぶっては行けないとレビューから見えて来ます。後、自分もハリウッド映画ジョーカーを近いうちに見に行こうと思います。作品のコンセプトは違いますが、何かしら繋がる物があると思います。それでは。
チャックファスナーさん
コメントありがとうございます。
お褒め頂いた事嬉しく思いますが、ネタバレし過ぎ申し訳ありません。
いろんな事を書かずにいられないぐらいの衝撃と感動した作品でした。
義理の父親と母親にもムカつきましたが、重宗にはムカつき×5ぐらいな感じです。
裁判所での由紀は髪もロングになってましたが、凛とした美しさがありましたね。
重厚なストーリーに出演された方々の熱の入った演技でとても良い作品でした。
また、お暇がありましたら、覗きに来て下さいね♪
このレビューは素晴らしい!
すべてが書かれてネタがバレバレです(^.^)
ただ貴方のレビューで秀丸さんの母親まで殺めてしまった事に気づく事が出来ました。
私も義理の父を憎みましたし、同時に母親に対しても憎みました。
一番憎んだのは重宗です!あの憎々しさは半端ではなかったです。
秀丸に対してそんな体で出来るのか!
‥‥と言った時には憎さが最高潮でした。 本当に良い演技をしてました!
私は由紀が裁判所に現れ凛々しい姿をされてた姿に驚くと共に安心し、そのキッカケが彷徨った日の夜明けの美しさで充分ではないかと思いました。
皆さん本当に良い演技をしてたと思います。以上コメントさせていただきました。