「受注仕事における表現」つつんで、ひらいて 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
受注仕事における表現
装幀は本の顔を作る作業だ。書店で本を選ぶとき、一番最初に目にするのは著者の文章ではなく、装幀デザイナーの手掛けた装幀だ。装幀一つで何百ページある本の内容を伝え、興味を持たせるか。そこには匠の技とこだわりが詰まっている。菊地信義氏は、手作業でデザインを作り上げている。手作業ゆえの自由な発想で斬新な本のデザインをいくつも手掛けてきた。本には著者の文章だけではなく、装幀デザイナーの表現もまた詰まっているのだと教えてくれる作品だ。
広瀬監督のお父さんも装幀の仕事をしていたらしい。そんな彼女が「受注仕事」における表現とは何かについて質問するシーンが印象的だ。その質問は、監督の声もひときわ大きく録音されているように思ったが、おそらく監督が一番聞きたかったことなのだろう。装幀は誰かの依頼を受けて初めて仕事が成り立つ。そこに自分の主張はどこまで入っているのか、そもそも「自分の表現」とは何だろうかと考えさせられる質問だった。必ずしも自分の作りたいものばかり作れるわけではない映像作家として、きっと似たような悩みを抱えているのだろう。
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