劇場公開日 2022年5月20日

  • 予告編を見る

「対比と描写がひたすら胸を締め付ける」ワン・セカンド 永遠の24フレーム 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5対比と描写がひたすら胸を締め付ける

2022年5月28日
PCから投稿

映画が幕を開けるや、砂漠をゆく男の姿が映し出される。どれほど砂になぶられても歩調を緩めない彼の目的は何なのか。「フィルム缶」をマクガフィン代わりにした序盤では、セリフや状況説明を控えめに、中年男と少女との偶然性に満ちた出会いをスラップスティック風に編み上げていく。それに続く展開部をなんと表現しよう。場内に入りきらないほどの映画の観客たちが同じ方向を、瞬きもせずじっと見つめる。その荘厳かつ幻想的な光景は映画ファンにとって神聖で祝祭的なものだし、しかも中年男が主張するには、冒頭のニュース映像の中に長らく会っていない愛娘の姿が刻まれていると言う。彼にとってはメインの大作映画よりもこの娘が映る1秒間、24フレームの方がよっぽど大切なもの。そのシンプルながら深みを帯びた構造は、砂漠と人間、文化大革命と市民、永遠と一瞬とも自ずと詩的に重なっていくかのよう。その対比と描写がひたすら美しく胸を締め付けた。

コメントする
牛津厚信